＃29 想ってる ページ31
◈紫月side◈
真緒くんが出ている恋愛ドラマを、
私の家で本人と一緒にリアタイした。
事前に教えてくれた通りキスシーンも流れる。
紫月「……。」
本当に何も思わないと言えば嘘になる。
でも、格段に上手くなった彼の自然な演技に
素直にすごいと思う気持ちの方が大きかった。
紫月「放送終わったよ」
真緒「…ん」
その本人はというと、
ずっと私を後ろから抱きしめたまま動かない。
こんな暗い顔をした真緒くんは初めて見たかもしれない。
紫月「大丈夫だから、気にしすぎ」
真緒「そうだけど、なんて言うか……」
こんなに落ち込むなんて、相当悩んでたのかな。
真緒「紫月…」
紫月「待って」
彼の顔が近づいてきて、私は咄嗟に彼の口元を塞いだ。
真緒くんはキスを拒まれて
ショックだったのか固まってしまう。
紫月「嫌な訳じゃないから、聞いて」
私も成長して少しは素直になれたはず。
だから、ちゃんと言葉で伝えなきゃ。
紫月「私は、アイドルの真緒くんも尊敬してる。
今回のドラマもすごくよかった」
活躍してる彼を見ると自分も嬉しい。
これからもその成長を近くで見ていたいと思ってる。
彼女でいる前に、私はプロデューサーだから。
紫月「でも……上書きするみたいにするのは、やだ」
他の人とキスしてしまった罪悪感みたいな。
そんな気持ちでしてほしくない。
紫月「…ちゃんと、
私のこと好きだって思った時に、してほしい」
真緒「っ……」
私の気持ちが伝わったのか、また抱きしめられる。
真緒「…ごめん、ありがとう」
今更だけどすごく恥ずかしいことを言った気がして、
顔が熱くなる。
誤魔化すように彼の頭を撫でた。
真緒「やっぱり紫月には敵わないな…」
吹っ切れたようにいつもの明るい笑顔に戻る。
真緒「俺、胸張って紫月の隣に立てるように頑張るから」
紫月「(今も十分頑張ってると思うけど…)」
真緒「それにもっとかっこいい彼氏にもなる！」
紫月「(それも、もう十分なんだけどな…)」
恥ずかしくても伝えたいって思えるほど
私は真緒くんのことが好きで。
何があったって、
今更嫌いになんてならないし、きっとなれない。
紫月「(真緒くんでも、不安になったりするんだな…)」
私は彼の手をとって頬にキスをした。
驚いて耳まで真っ赤にした彼が、
同じように頬に返してくれる。
真緒「紫月、していいか？」
紫月「…うん」
今度こそ想いが伝わってきて、そっと目を閉じた。
続く
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作者名：紫鶴 | 作成日時：2021年8月4日 15時
