兎少年と一週間(参)

二十一兎 ページ23

天人(探し人)が見つかってからというもの、神威さんの外出が日に日に増えていった。

「…神威さん、今日もお仕事ですか？」

「……」

「次は、いつ帰ってきますか」

朝出かけて夜遅くに帰る日もあれば、数日帰らない日もある。連絡くらいくれてもいいのに。いついつ帰ると連絡をしてくれるような人ではないけども。
春雨という組織にはまっていても風来坊で秘密主義。
私の問い掛けにも何も答えてはくれない。男は背中で語ると聞いたことがあるが、神威さんの背中は何も語ろうとせず、黙秘を貫くばかり。

行く先も告げずに去っていく後ろ姿を目に焼き付ける。
きっと、神威さんなりの考えがあってのこと。それなら、私も私なりにこれからの事を考えないと。人任せにしてその人に責任を負わせるのは、あまりに無責任だ。



「…こ、こんにちは」

「こんにちは！ 今日は犬がボディガード？
キミを保護してるー…万事屋サンだっけ？ ココに入れられてちゃ何も出来やしないのに、過保護だねェ」

昼下がり。家事を済ませてやってきた私に、相手は無邪気な笑みを浮かべた。

急な依頼の入った銀さんたちの代わりにとつけてくれた定春くんは「う"ぅぅ」と、ゴミを見るような目つきで威嚇し始め、汚物を埋め隠すように後ろ足で床を蹴り出した。 今朝 万事屋のみんなにされた護衛(言いつけ)を忠実に守っているようだ。

「貴方に触れられると、いろんなところに飛ばされちゃうんですよね」

「特殊なケースもあるけどね。 キミみたいに」

「どうして私だったんですか？」

「狙ったわけじゃないよ。
触れた漫画(媒体)から連れ出せるのはランダムなんだ」

真選組局長の近藤さんに行方不明になった方たちを連れ戻せるよう協力を頼まれてからというもの、神威さんが留守中 問題の天人の方に会いに真選組屯所へ足繁(あししげ)く通い、情報を聞き出している。

それが役に立っているかは、わからない。

「主人公のNちゃんにも会いたいなぁ」

「あはは…漁師になれたNちゃんならここでも上手くできちゃいそうですね」

神威さんが出会ったのが私じゃなくてNちゃんだったら、どうなっていたんだろう。美少年繋がりで神威さんが惚れても不思議ではないくらいのいい子。あれこれ、神威さんが私に構ってくれていたのは気の迷いじゃ。
隣の席になった子を意識して好きだと勘違いしてしまったパターンなんじゃ。

「───その顔も可愛いねェ。
思い出して帰りたくなったのかな」

胸に空いた穴を埋めるように、その言葉は投げられた。


「帰らせてあげようか」

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