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嬉しそうに口角を上げ、私の名前を口にするとそこから漏れたヨダレがひび割れた床に滴り落ちていった。
初めましての挨拶が相応しい相手は、めり込む程に顔面を格子に押し付けながら「可愛い」「可愛い…」とうっとり、声を漏らしていく。
こ、怖い。それに、薄気味悪い。
初めて会う人にそんな事を思うのは失礼だけれど、一度立った鳥肌を止めることはできない。
神威さんの後ろに回り込み、マントを持ち上げた。
これは戦略的撤退、そう作戦のうちなんです。お邪魔します、神威さん…! 失礼します、と一言添えてマントの中へ潜り込み、身を縮み込ませる。
「……」
「……」
「…神威さん?」
引き剥がされるのを覚悟していたのに、神威さんから何も反応がない。マント越しで聞こえなかったのかな。
ううん、私の声が聞こえなかったにしてもマントの中に入られたら何かしら手は出してきそうなもので。
だらりと垂れ下がっている手に触れてみると突いた指先をぎゅ、と握られた。
「それで隠れてるつもりなの? 可愛い可愛い!
で? ホンモノ?ホンモノ見つけてきてくれたのかい、隊長サン!」
「本物だよ。 お前が連れてきたね」
隊長さん──沖田くんに話を振ったであろうその発言を拾い返したのは、神威さんだった。握っていた指先を離し、前へ前へと足を進める。歩かれると同時にマントの外へと出てしまった私を見るや否や「髪が乱れてても可愛い」と男の人は言った。
「A。 これ、預かってて」
「わっ、はっ はい」
片手で器用にマントを外し、乱暴に投げられたそれを両手で受け止める。使ってもいい、ってことでいいのかな。神威さんの体温が残るそれを頭からすっぽり被る。
「…見覚えのある顔だと思ったらアンタ、春雨の」
「やぁ、久し振り。まさかこんな所にいたとはね。
どうりで探しても見つからないはずだ」
神威さんは、手慣れた手つきで腰のホルダーから傘を抜き取ると銃口を男の人の額へ押し付けた。もしかして、この人が私を連れてきた人。それなら、出会い頭からの言動全てに説明がつく。
「神威」
弾が放たれる直前 銀さんの手が番傘をとらえた。
「そいつを殺っちまったらテメェの仲間も、Aも。帰れねェままになるぞ」
「うちの
銀さんに続き、沖田くんの剣先が神威さんに向けられる。 それでも銃口の位置は変わらない。
「……帰すつもりは端からないよ」
背を向けられたまま放たれたその声は、酷く切なく聴こえた。
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時