必殺武器 ページ18
櫻井次長の香りを覚えてしまった。
甘さから少しだけスパイスが効いていて、
油断させるような、突き離すような、
どちらとも言えないような。
「A、前向きに検討するって返事、
向こうも喜んでたよ、大歓迎だってさ。
いや、その評価って妥当だと思うぜ、
だから、俺、言ってたじゃん。
お前、もっと自信持っていいよ、保証する」
予想を越えて褒めて頂き、素直に嬉しい。
「本店の人事はさ、ちょっと不透明だから
頭数の少ない協会の方が、分かり易いだろ、
諸々込めて、Aに向いてると思う。
良い選択だよ」
確かに年に1回ほど不思議な人事がある。
人気者を獲り合い、厄介者を擦りつけ合い、
実力よりポジションでかけ引きすると言う。
櫻井次長の表情がとても真剣になった。
「一度本線から外れると、復活は難しくて
実際忘れられた奴なんていくらでもいる。
勿論挽回の可能性が潰される訳ではないし
制度として不可能ではないんだけどさ。
シビアに言うと、そろそろ決断の時だろ、
Aの実力を活かせよ、もっとさ」
嬉しいけど、でも。
「次長、それ、以前のお話と矛盾してます。
私に部下でいろって仰ってましたよ」
そうそう、あの言葉も嬉しかったんだけどな。
櫻井次長は、ちっちっと人差し指を振った。
「そんな小さい話じゃないんだよ、バカ。
本店ってフィールドなんて狭過ぎるだろ。
もっと業界全体とか、経済界ってスケールで
俺は話したんだって、分かれよ」
櫻井次長の大きな手が伸びて来て、
ぽんぽんと、少し乱暴に扱われる。
頭を動かさないまま視線を上げて見ると
テーブルに片肘をつく優しい笑顔があった。
「A、時々間抜けな顔すんのな」
それ、褒めてませんから。
「まあ、ほれ、飲め」
週末、仕事終わりの緩んだ次長の笑顔は、
必殺の武器に違いない。
学生時代の部活は何だったとか、
子供の頃、好きだったアニメは何だとか、
始めてカラオケで歌った曲は、とか。
どうでも良いようで、案外重要な情報を
お互い無防備にさらけ出して。
あ、無防備は、私だけかもしれないけど。
オーケストラでホルン吹いてたことや
戦隊ものが好きだったこと。
ピンクになってレッドに守られたかったとか
そんな話でなぜかケラケラ笑い合って。
「おっと、時間が経つのって早いな」
残念そうに次長が左手首の時計を見た瞬間、
胸の歯車が、かちりと動いたのを感じる。
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おはな(プロフ) - あやかさん» 年末の始まり、彼を長時間目で追いかけて、でも物足りない。この感覚が続いていくんでしょうね。覚悟しないといけないかなと。お話の方は、ゆっくりじわじわ進み、戻り、だからこそ確実になっていく感じを楽しんで頂けたらと思います。常に確実性重視の次長ですからね。 (2022年12月4日 18時) (
レス) id: 87927db929 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - Virdさん» sweetなお話の中で少しだけ登場した相葉さんの想いを、どこかできっちり書きたいと思っていました。唐突過ぎたかなと思ったりしますけど、私個人は満足です。主人公の気持ちにも少なからず影響するかななんて、ネタバレです。コメントありがとうございました。 (2022年12月4日 18時) (レス) id: 87927db929 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - きーたんさん» きーたんさん、コメントありがとうございます。控えめになってしまう主人公の過去を重視してしまいます。挫折を知らない、無邪気さが周りにどう影響するかとか、NOTキラキラ組の私の癖ですね。明るく爽やかな恋なんてあるものか！なんて思いながら書いています。 (2022年12月4日 17時) (レス) id: 87927db929 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - にゃんさん» にゃんさん、こちらこそ本当にありがとうございます。ネガティブな感情が沸き起こる中、モチベーションを保ち続けるのは結構難しくて。でもですね、ふたりの僅かな変化を書くのは、とても楽しいんです。是非、良い時にまたお越しください。お待ちしています。 (2022年12月4日 17時) (レス) id: 87927db929 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ていくさん» 年末が始まり、ドームがイルミネーションに彩られるのを見て、寂しくなりました。なのでお話の次長は誰と見るのか？主人公となの？彼女となの？と、ひとりで盛り上がっています。コメントありがとうございました。次の更新に向け準備をしています。またお越しください。 (2022年12月4日 17時) (レス) id: 87927db929 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2022年4月23日 23時
