【銀魂】うまく生きる為の方法

フラットな ページ36

感動、なんて安っぽい使い古された言葉かもしれないけれど、ーー私は、胸がジンとしたのだ。感動、していた。





「ほんと、変な男」

「テメェに言われたかねーけどな」



ふぅ、と息をついた坂田さんは、まっすぐ真剣に
私を見据えた。




「お前、はなから自分の本音とか文句とか、
全部諦めてんだろ。届きっこない、叶いっこない
そんな風に勝手に決めつけてよ」


「それは、」

「お嬢様ってのも大変だな。金がありゃ幸せって
ことでもねェわけだ」



お嬢様、なんて上等なモンじゃない。
ナイフとフォークの正しい使い方も社交ダンスも
私は知らない。




「そういや、自分を貶すくせに、家族を落とすような物言いはねーもんな、お前」


「・・・あ、」





たしかにそうだった。この男と話している時も。
これまで、人に自分の過去をちらりと話す時も。

悪いのは、期待に応えられなかった自分であり、
父も母も兄も、悪くない。
それは、無意識に芽生えていた自覚だった。





「ーーでも、少しくらいあんだろ？
"理不尽だ。なんで自分ばっかり"って思ったこと」





坂田さんの声色に、強制的な響きはなかった。
何気ない一言。ぼんやりしていれば聞き流してしまいそうなほどにフラットな響き。

誰にだって日常そんなときあるよな、と。
そんな風に聞こえた。







「・・うん」



誰にでも普通にあることならば、
私にだってあっていい。おかしくない。
醜くない。自分に与えられた境遇が理不尽だって
思うことは、普通のことなんだと。


素直に、軽く頷けた。


味噌汁を一気に飲み干して、深く息をつく。
まったく、一体どうしてこの男は、こんなにも
人を動かしてしまうのだろうか。






「・・私はさ、別に勉強で一番にならなくても
いいと思うんだよね」

「ああ」

「頭が良くて出世して、社会的な名声を得たって
幸せとは限らないじゃん？」

「そうだな」

「・・なのにさあ、私の親はエリートちゃんじゃ
なきゃ生きてる価値がないと思い込んでるわけ」




幸せを形作るのは、お金とか結果とか、そんな
目に見えるものじゃなくて。

いい友達や部下、恋人。
周囲をかためてくれる人たちであるのだ。


相談室を開いて数年、私の元に持ち込まれる悩みは
人間関係についてがほとんどだ。
"金がない"、"成績が悪い"、なんて悩みがまったく
ないわけじゃないけど、彼らが最も悩み、
苦しむものは、人との関わりなのだから。

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