【銀魂】闇に酔う悪魔

懲りてない ページ35

逃げてきた。

とにかく、今は仕事なんてできそうもない。




ーーそうして、ふらりふらりとたどり着いたのは、
江戸の町。裏路地を出れば広がる世界。





「・・寒い」



けれども、あの遊郭よりよほど暖かく感じるのは
なぜだろうか。

白く色づいた息が、目の前を染める。
道行く人の顔はみんな花のような笑顔を浮かべて
いて、ーーまるで別世界だと。ここにくると、
いつもそう思う。


あぁ、そうか。今日は日曜日だ。
人混みにもまれながら、あてもなく道を進む。

このまま流れに任せていれば、どこにたどり着くのだろうか。呆然とそんなことを考えながら。








「ーーーふう、」



やがて、私の足が止まったのは、一軒の店の前。
設置された古いベンチに腰掛けて
深く息をついた。

今にもちらほらと雪が降ってきそうな空だ。
白い雲に覆われている。




・・このまま、あの場所に帰らなかったら、
私は一体どうなるんだろうか。

凍え死ぬのかもしれないし、しぶとく生き残るかも しれないし。そんなの、その時になってみないと
わからないけど。






(・・苦しむくらいなら、死んだ方がいいかもねえ)




何となく、苦笑がこぼれた。

どうにも、弱っているみたいでいけない。
何もかもどうでもよくなって、何となくここにいる


ーーーいや、





(元々、何もかもどうでもよかったじゃないか)




だからこそ、あんな暗い場所で働いていられた。
全部捨てて、ただ生きるために無感情に客に媚びる

そんな人形に、いつのまにやら自我を与えたのは
間違いなくあの男なのだ。






「ーーー・・迷惑千万」




だらんと首をベンチにもたげた。

ちょうど空が見える。さっきまで雲に覆われていた
それは、今は青空をチラホラと覗かせていた。






「会いたい____、」




最終的にそんな願いに行き着くあたり、
私はまだ、あのお兄さんに懲りてない。

もう二度と会えないかもしれないのだと
自分に言い聞かせたばかりではないか。
そう飲み込もうとしても、無理なんだ。









．









「ーーーA？」









・・・だから、聞き慣れた声がそう私を呼んだ時、
自分でも驚くくらいに俊敏に、もたげた首を
起こしたのだった。

真冬のベンチ→←不便

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