【銀魂】闇に酔う悪魔

ただ、笑え ページ30

(ーー美味しい)






そんな風に感じたのはいつぶりだろうか。
もしかしたら、ここにくるよりずっとずっと前。

そりゃあ肉や魚、果物なんかも美味しいとは思う。
けど、慣れ親しんだ味にいちいち感動なんてしなくなっていたのだ、私は。


久々だ。口の中で、じんわりと溶けていく旨さ。
これは何も、酒の品質の問題じゃなくて。
ーー誰に注いでもらったからって話。






「美味しいよ、お兄さん」


「・・、そりゃよかったな」




笑いかけたときに見えたお兄さんの顔が、
すでに赤くなっていた。酔ったのかな？一口で？

強そうに見えるけど、実は下戸だったり。



ゆらりゆらりと揺れるランプに浮かぶお兄さんの顔

二人ぶんの影が伸びる。



静かに彼のお猪口に二杯目を注いだ私は、
その幸せを噛みしめる。お兄さんの存在や、
心地いい鼓動が、また私を現実から遠ざける。

・・やっぱり、罪悪感は抜けなくて。


いや、本当は一刻も早く、この綺麗なお兄さんを、
この世界から追い出さなければならないんだ。


それができないのは、弱い私のわがまま。








「ーーー・・まただ」


「え？」

「またそんなツラしてやがる」




二杯目を飲み干したお兄さんが、不満げに呟いた。
煩わしいとでも言うように、私の顔を指差して。






「時々、あんたは悔しそうに眉をひそめやがる。
また手前ェの気持ち押し込んで隠してんだろ」


「気持ち、」

「ろくなことねーぞ、そんな生き方」




まるで、経験者のように。







「お兄さんも、同じことしてたのかい」


「さあな。同じかどうかはわからねェ。・・何せ
俺ァ、押し込めたことを後悔してねーからな」



「なんだい。私が後悔してるみたいな言い方」

「してんだろ。今も迷ってる」



「・・あんた、酔ってるでしょう」

「酔ってねーよ」




確実に、酔ってる。

人って、アルコールが入ると饒舌になるんだ。
他人に説教したくなる。指摘したくなる。
この人は、まさに典型的なそのタイプだったり。






(・・ぜーんぶ、あんたのせいだってのに)



悩んでるのも、迷ってるのも、全部この男絡み。
罪な人だよ全く。そんなことにはこれっぽっちも
気づいてないんだから。






「・・笑ってる方がいい」

「え？」




「色々考えて苦しげなツラすんのも、
作り笑みもやめろ。ーーーただ、笑え」

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