6・潜む暗闇に ページ6
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『馬車が突っ込んだぞ!』
男が叫ぶ。
『わっ、私の代わりに男の人が…っ』
身代わりになってもらった女の子が震える声で言った。
『馬車を退けろ!』
『医者を、医者を呼べェっ!』
英語で語られたソレは、あたしの耳には理解できるはずなのに、言葉としては何ら意味の無いものだった。
隣ではターニャが、自身を抱きしめて震えていた。
瞬き一つしない黄金色の眼から、ボロボロと涙が溢れていく。
『エヴァンス…!!!』
愛しい愛しい恋人の名を呼んで、彼女は地面に膝を着いた。
彼らはこの日、婚約したばかりだった。
「嘘でしょ…?」
赤い血だまりを見つめながら吐いた言葉は、誰にも届かずに消えていった。
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それから、状況は一変した。
まず、ターニャは笑わなくなった。
ぼうっとどこか一点を見つめ、その瞳には虚ろな闇が広がっていた。
目の下の隈、やつれた四肢、色が抜けたブロンドの髪、カサついた唇…。
全て彼女とは関係なく、彼女を表すのであらば、正反対の言葉なのだとすら思っていたのに。
「もう、私、どうすればいいのか分からない…。わかんないよ……。」
悲しみに堕ちたターニャは、あたしなど眼中に無いかのように泣き続けた。
「ターニャ、大丈夫よ。大丈夫。エヴァンスだって、きっとそう思ってるわ!
いきなり幸せになれとは言わない。なろうよ、幸せに。ねぇ、ターニャ…。」
必死の呼びかけも、介さぬかのように、
「もう、嫌。どうして…。」
と、彼女はうわ言みたいに繰り返していた。
あれは、そう。
確か、寂れた教会で、剣の稽古をしている時だった。
キィ、と扉を開けて入ってきたターニャは、いつもより更に虚ろに眼をしていた。
「ハルカ…、ハルカ…、アタシノ為ニ、喰ワレテヨ…。」
ばきっ、という音がして、メキメキといいながらそれは形を変えていく。
「…は?」
それは、あまりにもターニャとかけ離れた、機械仕掛の兵器だった。
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菜雲(プロフ) - これからも、菜雲をよろしくお願いします。 (2018年4月7日 14時) (レス) id: 22316c2bb7 (このIDを非表示/違反報告)
菜雲(プロフ) - 厚かましくはありますが、菜雲の方で細々とですが、小説を書かせてもらっております。よろしければですが、そちらの方も見ていだだけると、光栄の限りです。応援してくれていた方、本当に申し訳ありませんでした。 (2018年4月7日 14時) (レス) id: 22316c2bb7 (このIDを非表示/違反報告)
菜雲(プロフ) - 続きを待ってくれていた方や、楽しみにしてくれていた方がいらっしゃる中、とても不甲斐なく思います。大変申し訳ありません。 (2018年4月7日 14時) (レス) id: 22316c2bb7 (このIDを非表示/違反報告)
菜雲(プロフ) - こんにちは、元・菜っぱ、現・菜雲です。《命を懸けて》は、パスを忘れたために続きが書けなくなってしまいました。 (2018年4月7日 14時) (レス) id: 22316c2bb7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:菜っぱ | 作成日時:2017年10月28日 16時