弐佰肆拾壱頁─両組織ノ困惑 6─ ページ15
『あの、すみません。私ってまだ信用されてないんですよね?』
「ん?まァ、そうだな」
『それならこの道はおかしくありませんか。この道筋...行き先は首領の部屋ですよね』
腕を握る手に力がこもる。
だがあくまでも折れるほど痛いというほどではない。
彼は今どのような表情をしているのだろうか。
私はこの時、昇降機から眺めるヨコハマの街並みよりもそちらの方が見たいと思った。
「首領、中原です」
良質な木材で作られた重厚な扉を数回ノックをし、彼は自身の名前を告げた。
結局彼は何処に行くのか教えてくれなかったが目的地は首領の部屋で間違っていなかったようだ。
「入りたまえ」
中から聞こえた男性の声に私は眉をひそめる。
その声は私が知っている首領の声とは違っていた。
...いや。
正確には頭に残る声がそのまま少し低くなったような感じ。
その理由を考え出す前に扉が開かれる音がし、中へ誘うように腕を引っ張られる。
「今日は少し遅かったね。...おや、その少女は」
「建物の前で見張りの黒服に妙なことを云っていた為連れてきました」
腕から手を離される代わりに背中を軽く押される。
私は“一歩前に出ろ”という指示だと捉え、それ以上何かをされる前に大人しく足を踏み出した。
「...成程。実は先刻、武装探偵社を通じて特務課からの連絡が回ってきてね。君、名前と年齢は?」
武装探偵社...?
特務課と繋がっているということはそれなりの異能組織なのだろうか。
なんとなくその名前を聞いたことがあるような気はするけども、覚えていないということは同じ名前の別の組織か。
『私は有島A。歳は十三。見張りに止められ遊んでいたところを、其処にいる中也のお兄さんに連れてこられました』
その時、私は空気が妙に歪んだのをはっきりと感じた。
勿論空気に形は無い。
しかしそれは決して気のせいではないと目隠しをされていても確信出来た。
「中也君の兄、か。では私のことは誰だと思うかね?」
『それは......』
続けて出された問いに言葉が詰まる。
この問いへの答えで私の処遇が決まるからではない。
ただ単純に言葉が喉を通らなかったのだ。
頭には浮かんでいる。
だがそれがつっかえて中々出てこない。
何十分にも感じた時間の後、私はこれ以上時間をかけられないと最初に浮かんだものをそのまま声にした。
『森さん...の家族の人?』
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時