弐佰肆拾頁─両組織ノ困惑 5─ ページ14
『よく判らないことに変わりはないですが、抵抗しない方が善いみたいですね。話が噛み合っていないようですし』
「やけに素直だな。殺されるかもしれねェのによ」
『別にそうなるならそこまでだったてだけです。だからと云って生に執着が無いわけではないですが、このままだと更に面倒な事になると思ったので』
「...そうか」
拘束の代わりに目隠しをつけられ、腕を引かれて暗闇の中を歩かされる。
私の異能を知ってるなら普通に入れてくれれば善いのに、なんて事は口にしない。
建物内を見せない為かもしれないし、手枷なんてものよりかは彼の異能の方が何倍も拘束力が高いからかもしれない。
記憶通りの距離を歩くと私は云われる前に自ら足を止めた。
感覚が正しければ今目の前には
「手前、なんで止まったんだ」
突然歩みを止めた私に男は警戒を強める。
しかし腕を引くその手はただ握られているだけで痛みはなかった。
『この辺りに昇降機があると思ったので。勘違いであればすみません』
「...いや、別に間違ってるわけじゃねぇが」
男の声に不可解な間が空く。
この隙に腕を振りほどくことも考えたが、先程約束をしてしまったのでそのまま静かに待つ。
少しして何かを諦めたような息が聞こえたかと思うと再び腕を引かれた。
しかし一度強く引かれただけでそれ以上は続かない。
恐らくもう昇降機の前なのだろう。
その証拠にボタンを押し込むような音が小さく聞こえた。
壁を挟んだ向こう側で重いものを引っ張り上げる機械音がする。
数秒後ベルが鳴り、扉の開閉音が耳に届く。
腕を引かれて中へと誘導される。
この昇降機はガラス張りとなっており、高い位置からヨコハマの街を見下ろすことが出来るのだ。
何度見ても飽きないので、一度そう思ってしまうと景色を見たいという気持ちがどうしても込み上げてくる。
だがそれも今は目隠しのせいで叶わない。
少しばかりの抵抗をと私はお気に入りの曲を小さく口ずさんだ。
昇降機は一定の速度を保ってどんどん高度を上げていく。
やがてそれは穏やかになりベルの音と共に停止する。
昇降機が止まる時に感じるあの嫌な浮遊感を今回は感じなかった。
再度腕を引かれる。
流石に何階に止まったかまでは判らない。
どうせ取調室に連れていかれるのだろう。
...と、三十秒前まではそう思っていた。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時