弐佰参拾玖頁─両組織ノ困惑 4─ ページ13
『先程は偽名を名乗ってしまい、すみませんでした。実は私、本日此処にお伺いになられる方の使いの者でして────』
「使いの者か。そりゃあ随分と大きく出たもんだなァ?」
突如、会話に割り込まれた若い男の声。
肩に置かれた鉄の塊のように重い何か。
触感からそれは異常な質量を持つ手だと判断する。
...凄い。素直にそう思った。
でもこの感じ、私は以前に経験したことがあるような気が。
「此処は子供が来て善い場所じゃねェ。さっさと────」
男の言葉がそこで途切れる。
それもそのはず。
というより、そうでなくては困る。
前を向いているのではっきりとは判らないが、彼の首筋には絡みつく寸前の薔薇の蔓が添えられているのだ。
僅かに出来た隙をついて男の手から逃れ、一歩後ろに飛んで距離を取り体勢を低くする。
左手に握っている種を感触で確認し、私は顔を上げた。
『......えっ』
男と向き合った瞬間、私は無意識的に心の声が口からするりと抜ける。
『...中也ってお兄さん居たんだ』
驚きのあまり思わずこぼれ落ちた衝撃的事実。
しかし驚いているのはこちらだけでなく向こうも同じようだった。
「手前、身内で油断させる
低く威圧感のある声、誰が見ても不機嫌だと認める表情で警告する小柄な男性。
彼の足元の地面は僅かにヒビが入っていた。
私の後方で二人の黒服が息を呑むのを背中越しに感じる。
「何を見て其奴に変装したのかは知らねェが、少なくとも其奴の立場を判っての事だよなァ?」
『...すみませんが全く話が見えませんね』
いつでも動ける体勢を維持しつつ、相手の行動に目を配る。
彼は変わらず表情を崩さない。
...いや。
正確には先程よりも少し酷くなったように思える。
「手前、いい加減にしねェとぶっ潰すぞ」
男が首元の茨に触れた直後、それは歪な音と共に力無く地面へと落ちた。
形が変わり、潰れているのが一目で判る。
異能は同じと見て問題なさそうか。
それなら幾つか方法があるがどれも状況が悪い。
ふぅ...と息を吐き、私はゆっくりと体勢を元に戻す。
話し合いに持ち込んだ方が圧倒的に楽だよね。
弐佰肆拾頁─両組織ノ困惑 5─→←弐佰参拾捌頁─両組織ノ困惑 3─
ラッキーカラー
あずきいろ
504人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時