弐佰参拾漆頁─両組織ノ困惑 2─ ページ11
『これがもし異能で創られた空間で、脱出ゲームみたいに謎を解いて玄関の鍵を探す的なのだったら善い────』
ふと、携帯電話を片手に声が止まる。
...あれ?携帯電話ってこんな形だったっけ。
否、それよりもこの時刻......
正確には時刻ではなく日付。
現在時刻とともに表示されているそれは、自分が知るよりも七年ほど先の数字であった。
それを見た瞬間、緊張で強張っていた躰の力がすっと抜けた気がした。
人は予想の遥か上の現実を突きつけられるとこうなるのだろうか。
『...玄関確認してこよ』
*
「ただ今戻りました────あれ?まだAさん来てないんですか?」
書類届けを頼まれて外から戻ってきた敦が事務室を見渡す。
其処には既にAを除いた社員全員が出勤を済ませていた。
太宰さんが来ているのにAさんが来てないだなんて珍しいなぁ、と敦は軽く驚く。
壁に掛けてある時計の針は正午を過ぎていた。
「遅刻はあっても十二時までには必ず来ていましたし...連絡も無いんですか?」
「あぁ。少し前に太宰が電話をかけたらしいが応答は無かったようだ」
国木田が重い溜息をつく。
今日は特に忙しいわけでもないが、それでも一人足りないのは痛手だった。
「昼休憩を利用して直接家に迎えに行ってもいいのだが、ここ最近何かと忙しくてまだ彼奴の住所を聞けていないのだ」
「それじゃあ私と一緒に行こうじゃあないか!」
会話に割り込み、満面の笑みを浮かべるのは太宰。
彼は既にパソコンの電源を切り、机の上の資料を一箇所に纏め始めていた。
国木田は毎日のように行われる自由すぎる同輩の提案をいつも通り却下しようとしたが、彼はそれが喉を通り抜ける寸前で留める。
「...判った。俺が今取りかかっている作業が終わったら案内してくれ。社長には俺から伝えておく」
「流石は国木田君!」
了解の言葉を聞く前から外に出る支度をしていた太宰はいつの間にか扉の前に立っており、それを眺めて敦は苦笑いを浮かべた。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時