13.side彩 ページ14
頬に気持ちの良い潮風が当たる。ここは海。
さっき寝たはずなのに、どうして海にいるんだろう？
私は大きく深呼吸をした。気持ちいい。
ここにいると、なにもかも忘れられる。
家のことも勉強のことも、学校のことも。
ずっとこのままここにいられたらいいのに。
そんなことを考えながらなんとなく海に向かって進む。
裸足の足がひんやりとした潮水につかる。
私はびっくりした。
水面に映っていたのは、私じゃなくて、4歳くらいの小さな女の子。
チョコレートブラウンの色をした髪、焦げ茶色の瞳の女の子。
これ、小さい頃の私だ！
ポカンとしていると後ろで声がした。
？「おい！」
え･･･！？
彩「カズ君！」
知りもしない名前が私の口からでる。鈴が鳴ったような高くて小さな声。
『カズ君』と呼ばれた同い年くらいの男の子は私に笑いかける。
カ「海、綺麗だね。」
彩「うんっ！あたし、この海だいしゅきなの！」
へぇ･･･私、この海好きなんだ･･･。
カ「僕もだよ。ここで初めてお前に会ったんだよね。
あの時のことは、僕、鮮明に覚えてる。」
彩「しぇんめい？」
カ「鮮明っていうのは、鮮やかで明らかなこと。はっきりとしていることだよ。」
彩「？？？」
カ、カズって子、4歳で鮮明なんて言葉知ってるのぉ！？説明もばっちりだし！
もぉ〜、何で私は知らないのよ！国語のエキスパートなのに！
カ「つまり、あの時のことははっきりと覚えるって事だよ。」
彩「なるほど！また一つ、カズ君から教えてもらっちゃったね。」
カ「何でも聞いてよ。これからも、一緒にいるんだから。」
でもその瞬間、小さな私の心を悲しみに溢れた。
彩「カズ君、私ね、明後日、東京に引っ越すの･･･。黙っててごめんね。」
カ「え･･･。」
彩「ごめんね･･･。私もこの間、急に言われたの。何で、嫌だって言ったら、
もう決まったことだからって。ごめんね･･･。」
カ「･･･。何でよ！母さんも父さんも、他の皆もお前も！
何で僕は一人にならなきゃいけないんだよ！皆自分ばっかり！」
彩「そんなこといわないで･･･私だって･･･」
カ「うるさい！お前になにがわかるんだ！
アーヤなんて･･･アーヤなんて大嫌いだ！」
私の視界がぼやけた。
彩「カズ君のバカッ！」
言い残して私はカズ君に背を向け走り出した。
ダメだよ、ちゃんと向き合わなきゃ･･･。
そう思いながら、私の意識は薄れていった。
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作者名：彩芽 | 作成日時：2016年12月16日 7時
