初桜、折しも今日は良き日なり【ars】 (ページ2)

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1.僕の名は。ページ2

桜太郎と名付けられた俺は、半裸だったわけで

そんな俺にお爺さんが着物を着せてくれた。

「おや？」

俺が出た後の、サクランボの抜け殻を片付けてたお婆さんが声を上げる。

「桜太郎、これは何だい？」

お婆さんの手には紙切れ

それを受け取ると、そこには『翔』と書いてある。

「...翔...」
「桜太郎、それ名前じゃないかい？」

お爺さんが俺の手元を覗き込んで、呟いた。

「名前...」

え？俺、名前あったの？
今、名付けて貰ったばっかなのに？

すんませーん、俺、翔って名前でしたー桜太郎返還しますー！

...言えない...

「桜太郎、せっかくだからその翔という名前を名乗りなさい」
「でもお爺さん...せっかく名付けて貰ったので、僕は桜太郎で居たいです」

だったら！と、お婆さんが手をパンッと叩いた。

「桜翔太郎で良いじゃないですか！」
「桜...翔...太郎」

ミドルネームみたいになってんだけど...

「外国人のようだな！婆さん！」
「ハイカラですよね！お爺さん！」

あ、本当にミドルネーム...

「よろしくな、翔」
「えっ？あ、はい。よろしくお願いします、お爺さん」
「仲良く暮らしましょうね、翔」
「はい...仲良くして下さい、お婆さん」

『桜太郎』は名付けられたはずの俺は、いつの間にか『翔』になってて

お爺さんとお婆さんは、サクランボから産まれたなんて奇天烈な俺を大切にしてくれて

俺もご恩を返す為に一生懸命に二人の手伝いをした。

芝刈りをすれば、手から滑らせた鎌を放り投げてしまってお爺さんの鼻先をかすめたし

洗濯をすれば、お婆さんの大切な着物を流してしまって必死で走って追いかけたりしたけど

それでも俺なりに一生懸命やっていた。

そんな毎日の中、お爺さんが「鬼ヶ島を知ってるか？」と俺に話し掛けて来た。

「鬼ヶ島？」
「そこには『鬼』と呼ばれる化物がたくさん居てな、金銀財宝を隠し持っておるらしい」
「化物...」

カテゴリー分けすると、俺も化物なんですけどー...ってのは黙っとこう。

...ってか、金銀財宝...

それを俺が持ち帰ったら、二人に最大級の恩返しできちゃう！？

「お爺さん！俺、鬼ヶ島行って来る！」
「え？翔、鬼は怖いんだぞ！？」
「え？怖いの？鬼、怖いの？」
「角があって牙があって虎柄のパンツを履いてるんだ」

虎柄...趣味悪...

鬼なんて怖くないでしょ。

俺だって化物だ。

サクランボから産まれた男なんて、他に類を見ないでしょ。