PRESTO！【ars M.A】 (ページ9)

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9.和の心。ページ9

鏡の前で、帯をポンと叩く。

「よっし！男前だよ、雅紀！イイオトコ！」

鏡に映った和服の俺を自分で褒める。

濃紺の着物に、黒い羽織。

身に着ける物に携わる職に就いた時に、洋服だけじゃ無く和服の事も勉強しようと思って習った着付け。
...って言っても、母ちゃんの友達に着付けの免状持ってる人が居たからお手軽に教えて貰ったんだけど。

着付けをマスターして一番良かったのは、浴衣や着物の女の子とえっちしてもちゃんと元通りの状態にしてあげれるって事。
何たって「着付けできないからえっち無理だなー...」なんて思わなくって済むんだから超お役立ち。

和服を脱がすのも、なかなか良いんだよねー！...って今からAちゃんと初デートなのに何考えてんの、俺！

ってか...そうだよ、初デートだ。
Aちゃんにとってはただの初詣だろうけど、俺にとっては初デート。

「あー...緊張して来た...」

部屋の壁掛け時計は１２時半。

和服を着たのは、少しでも大人に見せたかったから。

落ち着いた男だって、思わせたいから。

...分かってるけどさ、和服着た位で俺の『女好きで遊び人』ってイメージが簡単に覆らない事くらい。

それでも、少しでもAちゃんに良く想って貰いたいって思うのは、恋してたら当然の事だと思うんだ。

浅はかになって、ちょっと小狡い事考えて、卑怯な手を使っちゃっても好きな子を手に入れたいって思うのは

男なら、当然だと思うんだ。

「さむっ...」

待ち合わせの１０分前に到着した駅前。

羽織にマフラーも巻いたし中にはヒートテックだって着てるけど、普段ダウンや裏地がファーのモッズコート着てる俺にこの格好はなかなか厳しい。

腕を組むように袖の中に手を突っ込んで手を暖めながら、Aちゃんが来るのを待つ。

やっぱり駅前はいつもより人が多く感じる。

その辺にある自販機でホットコーヒーでも買おうかなと振り返ると

「おっ...ぅ」
「お待たせしました」
「Aちゃん...」

そこに、黒いコートにフワフワした紺色のニットストールを巻いたAちゃんが立っていた。

「雅紀くん、全然見付けられなかった」
「え？」
「いつもの感じの服装の男の子を探してたから...」

Aちゃんが俺の格好を上から下まで見て、最後に顔を見た。

「着物、凄い格好良いね！」

さっきまで寒かったのに、一気に顔が熱くなる。

もうこれだけでも着物の価値あったよ！なんて思う俺は

...やっぱ、単純。