PRESTO！【ars M.A】 (ページ20)

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20.どんな質問。ページ20

Aちゃんの自転車を引いてあげて、夜道を歩く。

こっちに帰って来るまであんなに弾んでた能天気な気持ちは、もうスッカリ無くなっちゃって「現実って、甘くないよなー...」なんてさっき出会ったばっかの香取さんを思い出しながら思う。

本当は訊きたいコト、色々あるんだけど

彼氏じゃない俺が訊くのは、何か、やっぱ駄目な気がしてどうでも良い話ばっかりしてたらAちゃんと別れる曲がり角まで辿り着いてしまった。

「雅紀くん、今日はありがとう。楽しかった！」
「あ、うん。...俺も」
「じゃあね、明日からお仕事頑張ってね」
「うん、Aちゃんも」

ここまで引いて来た自転車を、Aちゃんに渡す。

「...あ、ねぇ！香取さんって、格好良いね！」

Aちゃんがハンドルを握った瞬間、俺の口からポロ...って、出た。

歩いてる間中、ずっと考えてた。

『オーナーさんとあんなに仲良くなるもんなの？』
『本当にオーナーとスタッフってだけの関係？』
『どうして名前で呼び合ってるの？』

...どの質問も嫉妬に塗れて、すっごく感じ悪いし気持ち悪いなって思った。

彼氏なら訊いて良い質問なのかもしれないけど、俺が訊けるコトじゃない。

だけど『格好良いね』なら悪意は感じられないだろうし、そこから上手く行けば何か聞ける...？なんて...

どっちにしても俺、気持ち悪いけど！
こんな心の声聴かれたら死んじゃいたい位に気持ち悪いけど！

本当はさ『Aちゃんが好きだから気になっちゃうんだ』って言えたら一番良いんだけどさ...

「慎吾くん、昔っからあんな感じで目立つ人だったんだよ」
「昔から..？」

うん、昔っから。って、Aちゃんが笑って頷く。

「幼馴染なの、慎吾くん。子供の頃、同じマンションに住んでて」
「あ...そうなんだ...」
「年も９歳も離れてるから、お兄ちゃんみたいな感じかなぁ」
「...もしかしてさ、初恋の人だったり？」

自転車の前カゴに入れてた缶コーヒー。

「今日のお礼に」って奢ってくれたそれを、俺に渡しながら君はふわっと笑う。

「昔の話だよ」

ズキン、って胸が痛んだ。

Aちゃんとバイバイして１人っきりになった家までの帰り道。

手にはAちゃんに貰ったブラックコーヒーの缶。

また勿体なくて飲めない缶が一つ増えた。

でも、この真っ黒な缶はまるで俺の心ん中みたいだなぁ...とか思っちゃって

ちょっとポエマーな俺。