極楽ハニー【ars K.N】 (ページ10)

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10.策士。ページ10

「ボクが彼女を連れて帰りますので、先生はここに居て下さい」
「しかし...万が一アイツに会ったらどう説明するんだ。こんな部屋をとっていた事...言い訳出来ないだろう」
「その時は執筆に煮詰まって出版社...うちの名前を出して頂いて構いません、有明書房の二宮に無理やり缶詰にされたとでも言っておけばいいでしょう」

ニノミヤはニッコリと笑うと「でもさすがにスイートルームで缶詰は不自然なので、部屋の変更はフロントに頼んであります。すぐに移動して下さい」と落ち着いた調子で言う。

「それにしても...何で君はアイツがここに来る事が分かったんだ？」
「たまたまですよ。奥様が会う予定のご友人が、うちの編集者が担当してる女性作家なんです。その編集者から聞きました」
「僕がここに居る事は何故...」
「あぁ、それは...」

先生と向かい合ってたニノミヤが、ソファに座り何も言えない私の横まで歩いて来た。

「彼女が、先生とここでお会いすると言っておりましたから。先生とお仕事がしたいと、彼女、張り切ってましたからね」

ニノミヤの方を見る事が出来ない。

「でも先生、火遊びはもう少し慎重にやって貰わないと。手を出して良い相手と、危ない相手が居ますからね？」

怖い程に綺麗に笑ったニノミヤに、先生も「あぁ...すまない」と頭を下げた。

「いつでもこれ位しますから。アリバイだって作りますし、火遊びの証拠だって消してみせます。先生が良い作品を書く為なら、ボクはとことんワルイオトコになりますよ」
「頼もしいな」
「ですので、今後も有明書房をよろしくお願いします...なんて、言っちゃっても良いですか？」

クスクスと悪戯っ子のように「ボク、意地悪ですか？」って言うニノミヤに、先生も「二宮くんには逆らえないなぁ」と笑った。

「先生はすぐに部屋を移って下さい。奥様はご友人とホテルに来るだけですから先生が見付かるかは分かりませんが...保険です。これ、変更された部屋の鍵です」

先生はニノミヤから鍵を受け取るとその辺にあった自分の荷物をさっさと纏め、「二宮くん、助かったよ」と部屋を出て行った。

部屋に静寂が落ちる。

「...行こ」
「あの...ニノミヤ...」
「オレも先生の奥さんに顔割れてるから見付かったら面倒だしヤバイの。早くして」

冷たい声に、胸が痛くなる。

ニノミヤは床に落ちてる私のパンプスを拾い上げ、つまんない物を見るような目で踵の高いそれを眺めた。