極楽ハニー【ars K.N】 (ページ9)

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9.アサハカ。ページ9

『仕事の為に男と寝る』なんて、ドラマやそれこそ小説の中の話だと思っていた。

「先生...！？」
「君が僕を満足させてくれたら、この先もずーっと有明書房で書いても良いよ？」
「あのっ...でも...！」

必死で抵抗して立ち上がろうとすると、ソファの上に身体を押し倒された。

恐怖と嫌悪で鳥肌が立つ。

なのに...叫んでしまいたいのに、「仕事が」...と思うと何も言えない。

今、私が逃げたらきっと先生は二度とうちで書いてはくれない。

「女の君に出来る事なんて...これ位でしょう？」

言葉を失くした。

涙が、目尻を伝ったような気がしたけど

もう、どうでも良かった。

先生の手が、足を撫で

唇が、首筋に触れ

「私が我慢すれば良い..」と「これが女の武器なんだとしたら、何て情けないんだろう...」と目を閉じた時

インターホンが鳴った。

「...誰だ？」

先生がドアの方に目を向けたまま出ずにいると、インターホンは何度も鳴る。

その内、ドンドンとドアを叩く音まで響き出した。

「うるさいな...何事だ？」

高級と呼ばれるこのホテルでそんな騒がしくなるのは珍しい。

さすがに何かがあったのかと、先生が部屋のドアを開けた。

「先生！大変です！」

それと同時に、大声では無いのに切羽詰った男の声がした。

「あぁ...君は...何事だ？」
「奥様がこちらに向かってるそうです」
「何...？何でアイツがここに来るんだ！？」
「今日、こちらでご友人と会う約束をしているらしく...」

先生は「アイツに今来られたらマズイだろう...」と、先生は焦った様子で呟く。

「ボクがこんな所で話してるのも誰かに見られると厄介なので、中にお邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか」
「あぁ、すまん。わざわざ知らせに来てくれて悪いな」
「いえ、すぐに対処致しますんで」

パタンとドアの閉まる音。

「失礼します」

その言葉に、力無くそちらに目をやったら

「...え...」

黒いスーツをキッチリと着たニノミヤが、私を見ていた。

「...あ...」
「お疲れ様です」

温度の無い声で、他人行儀に私に挨拶をすると

その目はすぐに先生に向けられ「うちの社員がご迷惑をおかけしました」と、柔らかく微笑んだ。