極楽ハニー【ars K.N】 (ページ34)

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34.お正月の憂鬱。ページ34

長椅子に座って息を整えてる私の目の前に差し出される、ペットボトルの水。

「ほれ、どうぞ」
「...ありがと...」

そこにある自販機でニノミヤが買った物。

「...あ...」

キャップを開けようとして気付く。

一度開けて、少しだけ緩めてあるキャップ。

ニノミヤは一口も飲んでなかったから、私の為に緩めといてくれたんだ...なんて思ったら、おいおい女子高生か！って位に胸がキューンとしちゃって

恥ずかしくって、水をグビグビ飲んだ。

「落ち着いて飲まなきゃ、また噎せるよ？」

私の隣に座って、スマホを見ながらニノミヤがクスクス笑ってる。

「ところでさぁ...」
「...ん？」
「何で正月で疲れるワケ？ハメ外すほど遊んだとか？あ、海外でも行ってたの？センパイ」
「...実家に帰ってただけだけど...」

せっかく恋するキュンキュンで現実の厳しさを一瞬忘れてたのに、一気にまた思い出してしまった...

「実家？寛げそうじゃん、何もしなくっても飯は出て来るし風呂は焚けてるし」
「それはそうなんだけど...この年頃の独身女子には厳しい場所だってのを痛感したわ」
「そんなモン？あ、結婚しろだの何だの言われた的な？」
「...的な」

ニノミヤがジャケットの胸ポケットにスマホを入れながら「まぁ、放っとけやって話だよな」って笑う。

「それだけならまだ良いけどさぁ...お見合い写真なんて出されたんだけど」
「マジでっ！？」
「あんなのドラマでしか見た事無いって...実在したんだね...お見合い写真」
「フハハハッ！すっげぇな、それ！」
「笑い事じゃ無いし！」

ホント、笑い事じゃ無いし！
もう衝撃が凄過ぎて、そう言えばどんな人の写真だったのかもちゃんと見てないって...

「で？センパイ、お見合いすんの」
「はっ！？しないよ！結婚相手くらい自分で決めたいもん！ちゃんと好きな人と結婚したい！」

勢い良くニノミヤの方を見たら、ガッチリ目が合って我に返る。

...私、好きな人に向かって一体何を言ってるの！！！！！

「あ...いや...まぁ、ね？もうさ、歳も歳だし夢見てても駄目なんだってのは分かってんだけどね？」

ニノミヤの茶色い目が、ジーっと私を見てる。

「アラサーで、贅沢言うなって感じなんだけどさ...でもやっぱり...」
「センパイってさぁ...」

ちょっと眉間に皺を寄せて小首を傾げ、ニノミヤが小さな声でポツリ呟く。

「自分に言い訳して逃げ道作り過ぎじゃない？」

静かな声が、私の胸にシクッて突き刺さった。