16.銀杏。 ページ16
恋をした...と言っても、二時間前後で出会いから結ばれてハッピーエンドまで観せてくれる映画じゃないんだから
現実なんて、そんなサクサクとコトは進まない。
相変わらずニノミヤは女の子にモテてるし、仕事は出来るし、その割に飄々としてるし
相変わらず私は慣れない仕事に奮闘中だし、ヒールで脚は痛いし、生意気な年下男に片想い中だし
相変わらずガラスの渡り廊下は無駄にオシャレぶって、射し込む陽射しの暑さが尋常じゃないし
だけど、秋になれば会社の前の銀杏並木が黄色く色づくのがガラス越しに見えて、その時だけはこの渡り廊下が好きになる。
少し立ち止まり、黄色い葉っぱを見下ろす。
風が吹いてるのか、木がソヨソヨと揺れてる。
「くっせぇんだろうなぁ」
「...はっ！？」
「あのイチョウの木の下」
横を見ると、ニノミヤが私と同じようにイチョウ並木を眺めてた。
「落ちてるギンナン、くせぇよな」
「あぁ...ギンナンね。美味しいんだけどね」
「好き？」
「好き」
へー、オトナだね！って笑いながらニノミヤはこっちを見た。
「センパイ、何かこうやって喋んのって久し振りじゃない？」
「そう言えば...そうかも。ニノミヤ忙しそうだもんね」
最近、ニノミヤは大きな賞を取って作家デビューが決まった女子高生の担当になった。
彼女の原稿を受け取る為に夕方には社を出て直帰が増えたみたいで、気付くとニノミヤが居ないって事がしょっちゅう。
「センパイだって忙しいでしょ？」
「うん、お陰様で」
そう言う私も、携わらせて貰った書籍の刊行が近付いて来て忙しい。
背中合わせのデスクに、二人揃って座ってる事が本当に少なくなった。
「女子高生とのお仕事はどう？」
「どうって？」
「え...？やっぱ可愛いのかなー...って」
「ンフフ、可愛いよ。素直で一生懸命だし」
ニノミヤはガラスの壁に背中を凭れさせて、腕を組む。
「女子高生に手なんか出したら駄目だよ？犯罪だからね？」
「フハハッ！オレ、どんだけ節操無しだと思われてんのよ」
「無いでしょ」
「あるわ！」
俯きながら、ケラケラ笑うニノミヤに「アンタ色んな噂あるんだからね！まぁ...単なる噂だけどさ...」って言うと
「ホントに『単なる噂』かな？」って、細めた目でチラリと私に視線をよこした。
「さ、サボってる場合じゃねぇや。オレ、行くわ」
首をコキコキと鳴らしながら歩いてくニノミヤの後姿から、目が離せなかった。
...ドキドキが、止まらなかった。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2014年5月13日 20時
