明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ36)

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246.勝手に。ページ36

吐きそう...って思ったまま部屋を出てエレベーターに乗り込んだら、また届くLINE。

ホントにせっかちだな...って思ってスマホを見たら

『鍵開いてるから、勝手に入って来て』

...何か、冷たくないかい？
私、期待してたのに。
チャイムを押したら、優しい笑顔の彼が「いらっしゃい、待ってたよ」って迎え入れてくれるの。

......優しい笑顔、ってトコから現実との差があるな。夢を見過ぎた。

五階に着いて、二宮くんの部屋の前。

一応、前髪とかチョイチョイって直したりして。

「勝手に...良いのかな...」

ドアをソっと開けて、顔だけ入れてみる。
ふわり、二宮くんの匂い。

「お邪魔しまー...うわっ！」

私が声を出した瞬間、クロが猛ダッシュで玄関まで走って来た。

「クロー！こんばんはー！」

しっぽをちぎれる位に振ってるクロを抱き上げて、鼻をスリスリ。
ほっぺをペロペロ舐められて「うひゃー」って目を閉じると、閉じた目の上からもペロペロ。
癒し。

「はぁ...可愛い...たまらん...。あ、ねぇご主人様は？」

クロに話しかけても、真っ黒の大きな目をウルウルさせてるだけで何も答えてくれない。
当たり前だけど。

「二宮くーん...？」
「あー、中入っててー。今ちょっと手が離せない」

多分、その声は洗面所の隣の部屋から聴こえて来る。

「うん、分かったー...お邪魔します」

自分が呼び出したくせに『手が離せない』って、どーゆー事だ！

クロを抱いたまま部屋に入って、ドアが開きっぱなしになってる二宮くんが居るであろう部屋をチラっと覗く。

そこには、製図デスクに向かってる猫背な後姿があって

思わず、その背中をジッ...と見詰めてしまって

資料か何かを確認する為に横を向いた彼の横顔が、あまりにも真剣で

ちょっと息が止まりそうな位に、ドキンとした。

ついさっき、どーゆー事だ！なんてプンスカしてたのに、今はこんな姿が見れるならいつでも『手が離せないから勝手に入っててシステム』を使って欲しいなんて思ってる。

「A？」
「あっ...」
「何、覗き？」

回転椅子で、クルンと振り返った二宮くんがクフッて笑った。

「覗いた訳じゃ無いけど...ドア開いてたから」
「あー、閉めるとクロが寂しがっちゃうから」

そう言って、私の胸に抱かれてるクロを見て「ねー？」なんて首を傾げる。

「もうすぐ終わるから、イイコで待ってて？」

...おいおい。それ、クロと私、どっちに言ったのか分かんないってば。