明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ19)

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229.MINT。ページ19

二宮くんの手は、冷たい。

色白なその見た目通りだな、と思った。

「二宮くんの手は、冷たいね」
「オレは心があったかいからねー」

もうこんなの、全国民が一度は言った事があるであろう返し。

「じゃあ、私は心が冷たいってコト？」
「あー、そーなっちゃいますね」

これだって、同じ。

なのに、こんなベタなやり取りにだって気を抜いたらニヤニヤしちゃいそうでほっぺたに力が入る。

ずーっと繋がれてた手は、駅の改札を通る為に離した。

冷たい手が離れたら、自分の手がジワ...っと熱くなったのを感じた。

「今日は付き合ってくれてありがと」

マンションのエレベーターを待ってる時に、彼が横目で私を見ながら言う。

「ううん、私も行きたかったカフェ行けたし！」
「そっか。楽しかった？」

すんなりと、それを肯定しても良いのか分かんなくって

でも、分かんないけど楽しかったのは本当だし

やって来たエレベーターに乗り込みながら

「うん、楽しかった」

素直にそう応えたら、二宮くんは何も言わずに口角を上げた。

そして、帰り際に「あげる」ってミントガムをくれた。

部屋に戻って、ミントガムを口に入れる。

口の中にミントの香りが広がる。

手に持ってる銀色の包み紙を開くと、そのガムの商品名がデザインされてた。

「......」

二宮くんがくれるガムは、いつもこの味。

どうしよう。
今度からガムはこれを買おう、なんて思ってる自分に若干引く。

引きながらも、ちょっと恥ずかしくてムズムズして

何だか嬉しくて、ソワソワして

ベランダに出て、手摺からちょっとだけ身を乗り出して斜め上を見上げる。

五階の端っこから、光が漏れ出してるのを見てまた何だか嬉しくなる。

でも、あの告白を『聞かなかった事にして』って言われたのは事実で

だけど『今度告白する時は、Aの全部を貰うつもりだから』って言われたのも事実。

だったら、私はどんなテンションで彼に接してたら良いんだろう。

零れ出す二宮くんちの光を見ながら、面倒臭いなぁ...って思う。

その時、見上げてた五階のベランダからダラーンって両腕が垂れ下がった。

顔は見えないけど、腕だけが見えてて

すぐに左手が引っ込んで、次にその手が見えた時には指に煙草が挟まれてて白い煙が黒い空に昇ってる。

こっち、見ないかな...なんて思って

すぐに、見るワケ無いか...って思って

その腕が見えなくなるまで、ずっと見上げてた事は誰にも言えないな。