明日の天気の話をしよう 7th【ars】 (ページ16)

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226.SHUTTER。ページ16

月曜、マンションのエントランスで待ち合わせた二宮くんはいつも黒い筒を担いでる肩に

一眼カメラを斜め掛けしてた。

「写真やってたの？」
「やってるってゆーか、資料写真用」
「へー...資料...」

よく分からないまま、二人で出掛ける。

電車に乗って、乗り継いで、家を出てから一時間半くらい経って到着したのは

昔の洋館がたくさん残ってる地区。

観光地だから、平日でも人がたくさん居る。

「良かった！まだ紅葉してる」

洋館の庭先にある木々が色付いてる。

「紅葉が齎す建築物への影響っての？そーゆーの、見ておきたくって。色のバランスとか」

二宮くんが一眼を構えて、何枚も写真を撮る。

カシャ、カシャ、と気持ちの良いシャッター音。

「A！あっちの家も見に行っても良い？」
「うん、良いよ」

あっちの洋館、こっちの洋館、って見て回っては写真を撮ってる二宮くんの目は

子供っぽくなったり、前にも見た仕事の目になったり、クルクル表情を変える。

ずっと見てると、何故だか苦しくなって来たから

私は二宮くんが見てる洋館とは違う洋館に目をやった。

「綺麗だなぁ...」

建築の事なんて分からなくても、その美しい洋館と紅葉を見てるだけで素敵な時間を過ごしてる気分になる。
それに今日は天気が良い。

青い空を見上げると、薄く飛行機雲。

カシャッ

シャッター音がした方へ顔を向けると

二宮くんが、カメラを構えてこっちを見てて

反応できないままで居たら、もう一度そのカメラはカシャッと音を立てる。

「あ...ちょっと！」

写真撮られたんだって気付いたら、一気に恥ずかしくなって「撮ったでしょ！やめてよー！」って二宮くんを指差すと

構えてたカメラを下ろした彼の顔は、少しだけ悲しそうに見えて、でも微笑んでるようにも見えて

「ごめん...綺麗だったから」

私から視線を逸らさずに言われたその言葉を、どう受け取ったら良いのか分からなくて

だけど、勝手に胸はギュウ...って縮まって

「こ...紅葉がね！綺麗だよね！」

必死で笑って取り繕うと、二宮くんも「黄色よりも紅い葉っぱの方が好きかな」って笑った。

「あそこに良いカフェあるらしいよ。洋館そのまま使ってんの」

そして、その笑顔のまま向こうに見える洋館に視線をやる。

「あ...あ、そのお店知ってる！でも行った事無かったの！行きたい！」
「ンフフ、うるさいってば」

二宮くんが私の腕をポコンと軽く叩いて、また笑った。