225.面倒。 ページ15
仕事からの帰り道、後ろから「おーい」って声を掛けられた。
振り返ると、ちょっと離れた所から黒い筒を担いだ二宮くんが別に小走りする訳でも無くのんびり歩いて来る。
声を掛けられた...って事は、「待て」ってコトなのかな...
だったら呼び止めた方は走って来るとか、しない？
「おつかれーぃ」
「おつかれさま」
結局私の前までテクテクと歩いて来た二宮くんが、寒そうに首を縮めながら片手を挙げる。
「仕事帰り？」
「うん。二宮くんは学校の帰り？」
「そ。あー、さみっ！」
ブルっと大袈裟に震えて自分の身体をギュっと抱き締めるような仕草。
「もうすぐ冬だよ、早いよね」
「なぁA。紅葉って、もう終わっちゃう？」
「そうだね、そろそろ落ちちゃうかもね」
「マジかー...」
残念そうに呟きながら二宮くんが、街路樹を見上げる。
「どうしたの？まさか、『あの木の葉っぱが全部落ちたらオレの命はもう...』とか言い出さないよね？」
「フハハッ！何だよ、その古臭い台詞」
「だって残念そうだったから」
「いや、紅葉してる間に見たいモンがあったってだけなんだけどさ」
ほっぺたに空気を入れて、その空気を片頬づつ移動させてポコポコさせてる横顔が
女子。
女子。
大切な事だから二回言った。
「あ、Aって来週どっか暇？」
「月曜が休みだけど...」
「じゃ、ちょっと付き合ってよ」
「え、平日だよ？学校は？」
「元々単位はとっくに取れてんだから、いつ休んでも構わないの」
あぁ、なるほど。
「それに、勉強しに行くんだし」
「私、勉強に付き合わされるの？」
「まぁ、オレには勉強だけどAは楽しいんじゃない？観光地だし」
「観光地？」
「うん。だから、一緒に行こ？」
ニッコリ。
小悪魔スマイルで微笑まれて、息が止まる。
魔術だ、魔術。
ここまで来ると、魔術だ。
「こないだ、約束したでしょ？」
「約束...？」
「『また付き合ってくれる？』って言ったらさ」
「あ...」
「A、頷いた」
「...うん...」
「でしょ？」
あの時、どうして自分が頷いたのか分からない。
でも素直に、また二宮くんと一緒に遊べたら良いなって思った。
面倒臭いのに。
二宮くんの性格もだけど、告白されたのに無かった事にしなきゃダメだとかも面倒だし
色々と振り回されるのも、面倒だし
魔術にいちいち動揺するのも、面倒だし
だけど面倒以上に、...嬉しいとか、思っちゃってる自分が
一番面倒。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2015年10月23日 16時
