明日の天気の話をしよう 6th【ars】 (ページ23)

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198.甘い匂い。ページ23

「まぁね、家を出たのはかーちゃんはが知らない色んなオレの事情もあるけども」
「......」
「さすがにねぇ、オレもとーちゃんと同じ人好きになっちゃってー...ってのはかーちゃんもショックだと思うのよ」

だからそこは内緒にしときたいけど、って笑うと彼は

「でも...うん、何かさ...そっか、って思った。了解！って思った」

って、空に向かって呟いた。

「亮はさ、当然だけど百合子さんのコトを『お母さん』って呼ぶワケ。でもオレは『百合子さん』って呼ぶでしょ？」
「うん」
「でも、とーちゃんのコトはオレも普通に呼ぶしさぁ...不自然なんだよね、やっぱ」
「...そっか」
「だから、オレも百合子さんって呼ぶのやめようって決めた」

うん、って彼が自分の言葉に頷く。

「その、手始め？食えなかったモン、食ってみよっかなーって」
「クロワッサン...」

手元の袋の中に見えてる、クロワッサン。

「かーちゃんを忘れるワケじゃないけど、...立ち止まってちゃイケナイでしょ」
「...ん」
「ちょーだい」
「あ...、うん」

袋の中から、クロワッサンを一個出して二宮くんに渡す。

「ほら、Aも用意して。食うの付き合ってっつったでしょ」
「え？あ、はい」

やっぱり、何だか偉そう。

私もクロワッサンを出して、口の前で構える。

「はい。では、いただきまーす」
「いただきまーす」

パクっと齧ると、バターの味が口の中に広がった。

モグモグしながら、隣の二宮くんを横目で見る。

パンをジーっと見て、口元をムグムグ動かした彼と目が合った。

「お...っ、何見てんだよ」
「えっ！？」
「......そんなガン見されたら食えねぇだろ。見ないで！」
「あっ、あぁ、ごめんごめん！」

慌てて目を逸らして、ガブガブとパンに齧り付く。

「ンフフ、こぼれてるってば。パンカスが」
「んっ...」

ほっぺの中をクロワッサンだらけにしながら、パンカスがこぼれた膝の上をパンパンと払ってると

隣から、サクッ...と小さな音が聴こえた。

「...んま」
「......」
「でも、かーちゃんが焼いた方がやっぱ旨かったかな」
「...もう見ても良い？」
「フハッ！はいはい、見て良いよ」

お許しを頂いたから、チラリと二宮くんを見るとほっぺたを膨らませてモグモグしてる。

「百合子さんをさぁ『お母さん』って呼んだら...かーちゃん、寂しいかな...」
「...きっと安心するんじゃないかな」
「そっか...だったら良いな...」

暗くなり始めた屋上に、甘い匂いが漂う。