千夜一夜に降る君と描く物語【ars M.A】 (ページ26)

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恋ページ26

暫くそこから動けなくなってた私は、終電を逃してしまってタクシーで家まで帰った。

玄関を開けても当然だけど、マサキの「おかえりー」は無くて

そこにあったはずの、あのランプも無くなってた。

なのに、マサキが出してくれたコートはそのままで

あぁ...夢じゃなくって、全部現実だったんだな...と思う。

テレビを点けると、マサキが観てたまんまにしてあったシンデレラが流れた。

素敵な魔法は12時で、解けてしまう。
だけど、シンデレラはハッピーエンド。

溜息を零し、すぐテレビを消した。

ソファの上に、いつもより丁寧に畳まれてるマサキが着てたスウェット。

思わず、それをギュっと抱き締める。

「...マサキ...」

魔法使いも香水ってあるのかな...

いつもマサキから香ってた、甘い香りが鼻孔を擽る。

「...もう...色々残してかないでよ...」

願い事...今更、思い付いた

『マサキの記憶を、全部消して』

それが叶ったら、こんなに辛くなかったのに。

それを叶えて貰えば、私はこんなに泣かずに済んだのに。

マサキも、魔法界で自由になれたのに。

なんてアンハッピーエンド。

なんて悲劇。

なんて...哀しい恋をしてしまったんでしょう。

・

マサキが消えても、彼の記憶だけは消したくても消えないまま

街は一段とキラキラと華やいでいる。

当然だ、今日はクリスマスイブ。

今年はド平日で皆、仕事帰りのはずなのに

日本はやっぱり平和...そう思ってしまう、浮かれた街。

だけど赤も、緑も、金色も、私の目にはまるで白黒

楽しそうに歩く人達も、まるで止まってるように見え...る？

え...本当に街...止まってない？

私以外が誰一人として動いていない。

「お嬢さん」

聞き覚えがありすぎる声に振り返る。

「すげぇ勢いだな。首、取れんぞ」
「ニノ...さん...」
「はい、ニノさんですよ。御機嫌よう」
「ご...御機嫌よう...って、えっ！？それ、何っ！？」

いつも、『人間界に馴染むように』とか言って人間界の服を着て普通に歩いてやって来るくせに

今日の彼は、浮かぶ絨毯に乗り胡坐を組んでて

格好も、黒いローブにトンガリ帽子まで被ってる。

「何ってこれは自家用絨毯で、これは正装」
「...はぁ」
「ま、正装ってゆーか仕事着？オレこれでも司法に携わってるから、何色にも染まらないっつー、黒ね」

あ、それ人間界と同じです。

私は、プカプカ浮いてるニノさんを見上げながらどーでもいい事を考えてた。