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それからは来る日も来る日も、男はAに会いに来た。









男は旅をしているようで、いままで自分の見聞きしたもの、事を余すことなくAに話してくれた。






彼がAに話してくれること。

そのすべてがAの目を輝かせたが、
嬉しい半面、自分の世界との違いを思い知る。









別にそれでもいい。

この時だけは、私の目を見てくれるから。
私にだけ、私のためにお話をしてくれるから。









「やっと笑いましたね」








話に聞き惚れている自分の顔を見て、
男はくしゃっとした笑みを浮かべた。







それにつられて、Aもまた笑みをこぼす。









――――これが、“笑う”と言うことか。







自分で笑ったと思うことはなかったが、
口が左右に開くことを言うのだろう。









笑うことを知ったその日から、Aは自分が笑っているということを何回も自覚することとなった。









この人といると、不思議な気持ち。。







その思いはやがて膨らみ、Aの心に小さなつぼみを咲かせていた。



















―――ずっとこのままでいたい。


どうか、時間が止まってほしい。









ただ座って酒をのみ、男の話を聞くだけだったが、それがAにはいつしかかけがえのないものになっていた。









男の手が触れる度、
今ここに生きている自分を噛み締める。









生きるとか死ぬとかがどうでも良かったあの日は遠いものになっていた。



















しかし、それが続くわけもなく。






「そろそろ帰りますね」



決まった時間に男は立ち上がる。


何故か、それに合わせて自分も立ち上がってしまった。









『あ……。すみません』








Aの不安な気持ちを見てとったのか、
男はAの頭に自分の手をおいた。









「大丈夫です、明日も来ますから」







その言葉だけで、不安な気持ちが溶けるようだった。









『…お待ちしております』







改めて膝を折り、深く頭を下げる。









男は小さく笑うと、「おやすみなさい」と
言って去っていった。









男の声が、まだ耳に残っている。






頭をさわる。
まだ感触が残っていた。







心が締め付けられる思い。


それの正体にがわからず、
Aは首をかしげた。

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作者名:タコ無し焼き | 作成日時:2018年2月8日 23時

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