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そんなある日の事だった。
Aはその美貌故に遊ぶのにも相当な金が必要となる。
だからいつもは金持ちの男しか来ないのだが、障子を開けた瞬間、Aは思わず固まった。
そこにいたのは金持ちのとはほど遠い容姿の男だったからだ。
ボサボサの髪を乱暴に結び、
着ている服は所々擦りきれている。
『あの、隣を失礼してもよろしいですか?』
いつものようにそう尋ねれば、
男はこちらを見向きもせずに素っ気なく「はい」と言った。
珍しい人。
世界を知らないAにとって、
しゃべらない男はかなり珍しい者だった。
『お酒、お注ぎしますね』
そう言うと、男は無造作に杯を差し出した。
すかさず、Aは酒を注ぐ。
……そうして、時間は過ぎていった。
普通の人なら退屈でしょうがないのかもしれないが、Aは特別に思えた。
今日は自分の知っている夜ではない。
ただそれだけで、彼女の心は踊った。
しかしさすがに、このまま話さないわけにも行かない。
『あ……あの……』
話し掛けようとすると、男は立ち上がった。
”もう帰ってしまわれるのですか?“
その言葉をグッと飲み込む。
『またお越しくださいませ』
膝を折り、深く正座すると
男は帰り際にボソッと口を開いた。
「……貴女の名前を聞いてもいいですか?」
『…A、でございます』
言われるがままに名乗る。
「そうですか。…またきます。おやすみなさい、A」
『……はい』
背を向けたままだったが、
男はそう言うと去っていった。
今までにない気持ち。
心器にへばりついたどす黒いものが、
温かい水で洗い流されるようだった。
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作者名:タコ無し焼き | 作成日時:2018年2月8日 23時