検索窓
今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:277 hit

4 ページ4

そんなある日の事だった。





Aはその美貌故に遊ぶのにも相当な金が必要となる。







だからいつもは金持ちの男しか来ないのだが、障子を開けた瞬間、Aは思わず固まった。









そこにいたのは金持ちのとはほど遠い容姿の男だったからだ。









ボサボサの髪を乱暴に結び、
着ている服は所々擦りきれている。









『あの、隣を失礼してもよろしいですか?』









いつものようにそう尋ねれば、
男はこちらを見向きもせずに素っ気なく「はい」と言った。









珍しい人。









世界を知らないAにとって、
しゃべらない男はかなり珍しい者だった。








『お酒、お注ぎしますね』







そう言うと、男は無造作に杯を差し出した。








すかさず、Aは酒を注ぐ。








……そうして、時間は過ぎていった。




普通の人なら退屈でしょうがないのかもしれないが、Aは特別に思えた。









今日は自分の知っている夜ではない。



ただそれだけで、彼女の心は踊った。









しかしさすがに、このまま話さないわけにも行かない。









『あ……あの……』









話し掛けようとすると、男は立ち上がった。









”もう帰ってしまわれるのですか?“




その言葉をグッと飲み込む。







『またお越しくださいませ』






膝を折り、深く正座すると
男は帰り際にボソッと口を開いた。








「……貴女の名前を聞いてもいいですか?」









『…A、でございます』







言われるがままに名乗る。









「そうですか。…またきます。おやすみなさい、A」









『……はい』




背を向けたままだったが、
男はそう言うと去っていった。









今までにない気持ち。









心器にへばりついたどす黒いものが、
温かい水で洗い流されるようだった。

5→←3



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (2 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
設定タグ:オリジナル作品   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:タコ無し焼き | 作成日時:2018年2月8日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。