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張り見世の間から覗く橙色の妖しい光に
ハッと我に戻る。









この国の隅の隅にポツンと位置する、
男達の天国、女達の地獄。






夜は色めく町として、
男たちが酒や女に溺れていた。









そんな遊郭という寂しい檻の中で、
彼女は今日も空を仰ぐ。









涼しげに蒼く光る月と、それを見つめる私を嘲笑うかのように覆い被さる赤提灯の光。









それらの光のコントラストに遊女らは目を逸らす。



















―――今夜も「地獄」が優雅に花開いた。





様々な遊女達がだらしなく口から涎を垂らし、
弛んだ着物から素肌を露にする。






彩られた爪がついた手を格子の隙間から延ばし、通り過ぎる男達に媚び、そんな自分をも嗤うように手招きをするのだ。












そして――――誘惑に負けた者はその女がいる遊郭へと足を運ぶのだ。









それを繰返し、籠の中の女達は自分が選ばれるのを待ち続ける。















……しかし、彼女だけは違った。









彼女だけは別格だった。
彼女の名前はA。






Aだけは一人部屋で、たった一人で暇を持て余していた。









類稀なる程の絶対的な美貌。

それはこの町で囁かれている、もっともAを表す言葉だった。









故に彼女専用の張り見世や個室が用意されており、Aと他の遊女の差は歴然だった。









『……あ』



遊郭の影にひっそりと映えている、彼岸花。
それは繰り返し繰り返し咲き乱れる。








芽が生える頃からそれを見守っていたAは冷たい空気を纏う外を愛おしそうに見つめた。









『もうすぐ、枯れちゃう…』

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作者名:タコ無し焼き | 作成日時:2018年2月8日 23時

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