其ノ漆 黒死牟 ページ8
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『黒死牟さま、来ましたよ』
わたしは黒死牟さまの住まう場所までやってきた。
普通の人間より体力はあるし、回復力があるからここまで来るのに疲れはしなかった。
「A…」
『あら、半日前に会ったばかりなのにどうしたんです?』
黒死牟さまはわたしを見るや否や力強く抱きしめてきた。
彼の匂いが鼻腔をくすぐる。
「今日はAを…独り占めできると思うと…嬉しくて仕方ない」
『ふふ、わたしもです』
黒死牟さまは私を抱きしめながら耳元でささやいた。
「こんな甘い匂いを…撒き散らして…鬼に会わなかったか?」
『ええ、大丈夫でしたよ。外は晴天なので』
「そうか…」
不意に彼はわたしの首筋を舐める。
『んっ…』
「そんな声を出すな…我慢がきかなくなる」
『でも、“そのため”にわたしを呼んだのでしょう?』
そう、わたしは鬼の愛玩物。
不用意に傷つけ無理に失血させたり、手足をもいだりしなければ、上弦の鬼はわたしに“何をしてもいい”のだ。
ただ、わたしに恋情のようなものを抱いているのは上弦の壱の彼だけだった。
普段その手でたくさんの人を殺めているだろうに、わたしに触れる時は壊れ物に触るような優しい彼の手が好きだった。
「なぜ…泣く?」
気がつくと視界がぼやけ、涙していることに気がついた。
黒死牟さまは頬を伝うその涙を舐めた。
『優しくされると、つらいんです』
「…お前は泣き顔でさえも…美しい…どこまでも魅力的な…人間だ」
そう言うと彼はわたしの顔を上げさせ、瞳を閉じて唇を寄せた。
「泣きたいなら…泣けばいい…今日はたんと甘やかしてやろう」
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ノン - 面白いです。これからも、頑張ってください!応援してます。続きが楽しみです! (2020年8月17日 15時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
すみすみすみー - 稀血の女の子が鬼と暮らす場合ですか…おもしろそうですね!更新頑張ってください!こちらも応援します! (2019年10月1日 19時) (レス) id: f033c55e4a (このIDを非表示/違反報告)
いお(プロフ) - (´・ω・`)さん» うわわっ!早速コメントありがとうございます( *˙ ˙* )やる気出てきました頑張ります!!! (2019年9月21日 17時) (レス) id: f9a4668cbc (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`) - 好き…更新頑張って… (2019年9月21日 8時) (レス) id: 03f6bf06e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いお | 作成日時:2019年9月20日 22時