其ノ拾弍 珠世 ページ13
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血鬼術が有効になってから、姿形を変えて街を出歩けるようになった。
昼間、その日は朝から雨が降っていて、わたしは人気が少ない市場を歩いていた。
『あら、ごめんなさい』
蛇の目傘がぶつかってしまい、謝って傘をよけると、綺麗な藤色の瞳とかち合わせた。
その瞳に見合うような綺麗な女性だった。
「うっ……」
彼女はわたしを見るや否やとっさに鼻と口を塞いだ。
……この独特の雰囲気、間違いない。
『その反応、あなた鬼ね?わたしの匂いを嗅いで我慢できるなんてすごい忍耐ね』
「それ以上近づかないでください。
私はもう人を喰いたくなどないのです」
『あらどうして?人を喰わないのだったらあなたにあるのは死のみよ』
「……あなた、伝説の稀血ですね」
『そういうあなたは“逃れ者の珠世”で合ってるかしら?』
彼女の間に険悪な空気が漂う。
わたしは微笑んで敵意はないのだと示した。
『安心して。わたし、あなたに興味が無いの。
無惨さまや上弦の鬼に危害を加えるつもりなら容赦しないけど、そうじゃなさそうだからあなたとはこれっきりね。
ではお気をつけて』
「……隣町で獅子のような風貌の煉獄と名乗る男があなたを探していました。
あなたもどうかお気をつけて」
『あら、まだわたしのことを探しているのね?周到なこと。
ご忠告ありがとう、さよなら』
お互いに牽制しあい、わたしたちは別れた。
『……疲れました』
「何に疲れた」
『あの煉獄とかいう人間です。
まだわたしを探しているらしいです』
無限城に戻ったわたしは、何か薬品を調合している無惨さまに後ろから抱きついた。
「……Aにそれほどまでの心労を与える人間か。
早急に排除しなければ。
やはりあの時殺しておくべきだったな、私らしくないことをした。
いや、そもそもあの時………A?」
『……』
無惨さまの声を聞きながらわたしはすでに夢の世界に片足を滑らせていた。
「……おいで、今日は私の部屋で寝るといい」
優しく運んでくれる無惨さま。
ああ、こんな時間がずっと続けばいいのに。
人に蔑まれてきた人生で、わたしだけが優遇される特別なこの時間が幸せだった。
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ノン - 面白いです。これからも、頑張ってください!応援してます。続きが楽しみです! (2020年8月17日 15時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
すみすみすみー - 稀血の女の子が鬼と暮らす場合ですか…おもしろそうですね!更新頑張ってください!こちらも応援します! (2019年10月1日 19時) (レス) id: f033c55e4a (このIDを非表示/違反報告)
いお(プロフ) - (´・ω・`)さん» うわわっ!早速コメントありがとうございます( *˙ ˙* )やる気出てきました頑張ります!!! (2019年9月21日 17時) (レス) id: f9a4668cbc (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`) - 好き…更新頑張って… (2019年9月21日 8時) (レス) id: 03f6bf06e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:いお | 作成日時:2019年9月20日 22時