風の魔術師、此処に降臨【弐】

「悪い魔法使い」 ページ47

その声は、真後ろから聞こえてきた。
驚いて後ろを振り返ると、大きな本を持ったグレーの髪の子供が此方を見上げている。


？？「貴方は悪い魔法使い。
私達のマスターにイジワルをするもの。
マスターは何もしていないのに。」

「な……何の事だ？言ってる意味が…」

？？「優しい魔法使いは、魔術を使って他の人に敵を仕向けたりなんかしないわ。」

？？「あと、具合が悪いフリしてお母さんに水をかけたり。」

？？「マスターの事を、陰で悪く言ったりもしないわ。」


少女達の言葉にギクリと肩を揺らす。
今しがた放たれたその行動全てに心当たりがあったからだ。


「ちっ……違うんだ！
俺はただ………な、仲良くなろうと思ってさ！あいつにもちゃんと謝るつもりで…」


ここで素直に認めたら自分の命は無い。
直感でそう感じとった男は、三人の少女を丸め込もうとした。
サーヴァントとは言え、相手は子供だ。
簡単に此方の嘘を信じるだろう。


？？「「「……」」」

「(よし、上手く誤魔化せてる……後もう一押しで…)」


顔を見合わせている少女達を見て勝利を確信し、再び口を開こうとした男の言葉は、温度のない声に遮られた。


？？「ねぇ、どうして嘘つくの？」

？？「嘘をつくのはいけない事なのよ。
マスターや他のサーヴァントの人達もそう言っていたわ。」


悲しげな表情をしていた子供達のうち、本を持った少女はすぐにパッと笑顔を浮かべた。


？？「さぁ！そうとなったら悪い魔法使いは倒さなくちゃ！
ちょっとお説教するだけじゃ駄目よ。
悪い魔法使いは、大きなかまどの中に入れられなくちゃいけないわ！」

「ヒッ……！」

？？「バラバラにしないの？
お母さんをいじめる奴は解体して良いんでしょ？」

？？「えぇ、そうね。マスターを傷付ける人は皆悪い人だもの。
貴方は然るべき罰を受けるべきだわ。」


見た目とは裏腹に、告げられる言葉はどれもこれもが残酷なもの。


「っ……！」


危険を察知した男は、なりふり構わずにドアへ向かって駆け出した。
けれど、足に絡み付いた「何か」によってすぐに地面に倒れてしまう。


「ひッ……何だ、これは！？」


ハッと顔を上げると、人形を持っていた少女の姿がみるみるうちに変わっていく。
長い金髪は白く染まっていき、その手には先程の可愛らしい人形ではなく、巨大な鍵が握られていた。


？？「……いけない人。
罪を認めずに逃げ出そうだなんて。」


真っ赤な瞳が、静かに男を見下ろしていた。

知らぬが仏→←子供達は「悪戯」がお好き

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す