655# ブレない ページ5
▼TAKAMINA
多くは目の前のことで精一杯だった。その中で、あの子だけが違うところを見ていたように思う。彼女が大人びた少女だというのは出会った頃から知ってる。その反面で、ウチには普段なら見られない顔も態度もしてくれた。
みんなには言わないでくださいね、なんて。時には寂しそうな顔でお願いされた。自分の問題が、周りに与えるかもしれない影響について弁えているんだ。
ひと足早く劇場の外のお仕事に呼ばれたAの聡明なところは多くのメンバーに知られる。けれど、一緒にいる時間が多い同期や彼方たちはどうだろう。近くにいるからってその人の全部を知っているとするのは傲慢である。
「無言は肯定って捉えるけど」
「…………」
「そっか、分かった。たかみなさん、私はもう大丈夫です。聞きたいことは聞けました。戻りましょう」
ツカツカと、出入りの扉まで歩いてきた。そんな彼女に突っかかるのは凪沙と彼方。まだそもそものことが聞けていない。みぃちゃんの行動は矛盾している。それはウチだって思った。
けれど、同時にこうも思う。二人がわかっていることをAが理解していないわけがない。みぃちゃんを悪者にする物言いだけでもフラストレーションが溜まっているだろう。凪沙たちのそれは追い討ちだ。その顔、カメラの前で絶対見せちゃダメだよ？？
「はあ〜〜〜〜〜。凪沙、本当にみぃちゃんからの証言だけで今回のことが完結すると思ってるの？ 彼方さんも。00側は何も悪くないと？」
「えっ……」／「それ、どういう意味？」
「ご自分で『センターノヴァを復活させるなんて運営は何を考えているんだろう』と言っていたでしょう。たしかに、秋葉星の件には一枚噛んでいました。でもセンターノヴァに関しては足りません」
Aは「ツバサさん、」と呼ぶ。ここの会話が聞こえていますよね、とも。それにはツバサさんだけじゃない。牛山先生も、咲和さんにも。アイドル時代のみぃちゃんを知る人達にも今までのやり取りは届いているはずだ。
ウチを最初から頼ってくれたA。できるだけ理解したいとは思ってる。だって、そうしないと。Aは独りになってしまうから。仲間は目に見えるかもしれない。そうじゃなくて、安心できる人物のことだ。
罪をおかしたとはいえ、大好きなみぃちゃんを悪者と言われる。懐いている恵もここにはいない。誰かが寄り添わなければ、彼女はまた眠れなくなってしまうだろう。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2023年10月22日 13時
