ぬくもり Ⅰ (ページ14)

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"それ"は，5月。
ゴールデンウィークがあけた次の日に起きた。

「……あの。櫻井くん。」

渡り廊下で，名前を呼ばれて，振り返る。

……あれ?

たしか，大沢くんが，好き…って言ってた子……?

「お話，あるんですけど，いいですか?」

「…あ，うん。」

静かな渡り廊下に，彼女の声が響いた。

「私，入学式のとき…に，一目惚れ…しました。付き合って，くださいっ。」

俺は内心驚いて，目を丸くする。

「俺…と?」

「はい……っ。」

一瞬の沈黙のあと。

「俺…まだ，あなたのこと，全然知らないでしょ?だから…ごめん，ね?」

おそるおそる顔を上げると，
瞳に涙をためたその子。

そして，そのまま俺に頭を下げると，どこかに走っていってしまった。

"告白される"という経験が今までなかった俺の心臓は，
ばくばく，と大きく波打っていた。

・

「あんた，明日やばいことなるんじゃね。」

「え……?」

「…ま，明日になれば分かるだろーけど。」

バイトの前。

和也くんが，ゲームをしながらそんなことを言ってきた。

その意味を分からなかった俺は，
明日，人の残酷さを知ることになる。