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本作は上中下巻となっております

上巻はこちら→ノンブレス 上 【オリジナル小説】
 紙をめくる音とコップの中身をすする音だけが部屋を満たす。話が終わってから、先に口を開いたのは龍だった。
「青春だな」
 たのしそうな口ぶりの龍に、少しぬるい牛乳を飲み、義明は苦笑した。
「青春にしてはちょっと暗すぎる気がするけど」
「青春ほど死の翳(かげ)を負い、死と背中合せな時期はない。坂口安吾」
「ごもっとも。青春は、大人が言うほど綺麗なものじゃないね」
 ある者にとってはきらびやかな楽しき思い出、ある者にとっては努力と涙の経験、ある者にとっては友情と恋情のこじれと素晴らしさを教えるもので、そしてある者には、
 ──孤独と苦悩と後悔を味わわせる。
 この世界が誰に対しても平等だなんて、どこの誰が思うだろう。そして、やがて人々は知る。物事の価値の結局を決めるのは、自分でも教師でも政治家でも世間でもなく、個々であるのだと。
「龍、俺は多分、頭がかたい」
「多分でなくそうだよ」
「だから、お前みたいな友達がいてよかった」
「待てそれどういうことだ。俺が馬鹿みたいな物言いだな」
「別に他意はないよ。そういう意味なのは否定できないけど」
「否定しろよ」
「龍は頭のいい馬鹿だよ。俺は、頭が良くても要領が悪くて、変に真面目で小心者なんだ。先ばかりを考えて、安定した生活を求めることが、どうにも我慢ならない。それでも、安心しないと前に進めないんだ」
「そこまでわかったなら上出来だな。もう考えるのはよせ。お前の悪い性格が出る」
「わかった」
 雨音はやまない。手元の新聞がいつもより湿気を帯びて湿っている気がする。ろうと炎の匂いが体を流れて行く。
 嵐の日は好きだ。通り過ぎたあとは何もかも壊れていそうで、身体中の力を全部持って行ってしまい、後には何も残りそうにないけれど──
 ──息もできない今この一瞬を、風の中で味わっていたい。
 義明は龍に手を伸ばした。
「髪、伸びたな」
「うん」
「切ろうか」
「まだいい」
「龍は短髪の方が似合う」
「誰に見られるわけでもないのに」
「俺が見るだろ」
 龍は考えるそぶりを見せてから、はにかんで言った。
「……週末に頼もうかな。いくら?」
「失敗しても責任とれないから、いらない」
「やっぱりいい! タダほど怖いものはないってな!」
 義明は立ち上がり、龍の後ろに回って後ろ髪をかきあげた。龍の彼女が置いて行った黒のヘアゴムを手に取り、振りほどこうとする手を払いのけて結んでやる。
 今の俺は、誰かが死ぬほど欲しがる未来だ。それなら、精一杯生きなければ。
「綺麗な髪」
「わっ、なんかスースーする」
「そういえば、彼女最近こなくね? 喧嘩でもしたの?」
「喧嘩して別れた」
「何人目?」
「別れたのは……五人目」
「この間まで二人じゃなかった?」
「大事にしてんのにあっちが勝手にキレやがるんだよ。知らねーよあんなの」
「家に俺がいるからじゃない?」
 義明が若干目を伏せて言う。龍は気にするそぶりもなく答える。
「そうだったとして、そんなことで怒る女なら、別れて正解だと思うんだけど」
「……龍が長続きしないのってひょっとして」
「ちがう」
「あながち間違っていないかもしれない」
「それだけは確実にない」
「俺たっくんのこと好きだよ」
「もし男と付き合うならブルースリーがいい」
「何そのチョイス。俺は?」
「とりあえずお前はない」
「たっくんひでえ」
「たっくん言うな」
「たーっくーん」
「たっくん言うな」
 きっと、こんなどうでもいいやりとりに心から憧れる人がいる。過去の俺が、どうしようもなくそうだったから。
 嵐は過ぎてゆく。
 変わらぬものはない。
 だからこそ、この想いは変わらずに持っていたいと、そう思う。

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梨子(プロフ) - すげーいいです。世界観とか文章とか諸々 (2014年11月22日 23時) (レス) id: e60676db21 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:漆原 真 | 作成日時:2014年11月18日 22時

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