ノンブレス上【オリジナル小説】

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こんばんは漆原です

はじめまして、お久しぶりです

本作は、ノンブレス上巻となります

ほんまもんの短編小説よりは短いですが、このサイトの小説作品との相対で言うと長いと思います

長文苦手な方はブラウザバックで。

ひとつにまとめようと思ったら文字数制限から400字詰め原稿用紙５枚分ほど越してしまって、上下巻にしようと思ったのですが、内容が大まかに三つに分かれているので、キリのよいところで切って上中下巻といたしました。

評価をいただけるようでしたら、すべて読み終えた、最終巻の下巻にお願いいたします。

誤字脱字等はご報告していただけると嬉しいです。発見次第訂正し、コメントの削除を行います。ご協力をお願いします

漆原をお気に入り登録してくださっている方は、いつも閲覧ありがとうございます。短編で物語の締めくくりを練習したいと思っているので、しばらくお付き合いください。

本作は、ただの高校生が書いた作品です

至らぬ点が多々あると思いますが、あたたかい目で見守っていただけると幸いです。

最後に、行間がほとんどないため、文字の大きさは大で見ることをおすすめします。

11/19
下巻が友達にのみ公開になっていたため、修正しました

【登場人物】

・今川義明（いまがわよしあき）
主人公。

・樫木辰之進（かしきたつのしん）
義明の友達。

　今日は朝から大雨だった。ここ数日、天気予報では台風のことばかり報道され、嫌でもその進路が頭に入ってしまっている。日本列島を縦断する、そこそこ規模の大きなものだ。家の前に見える竹やぶが、葉や胴をこすらせてざわざわと音を立てている。道端のアルミ缶が転がっているところを見ると、かなりの強風なのだろう。
　義明は自室の窓から外の景色を眺めていた。
　昔から、晴れた日に外に出て遊ぶより、雨の日にぼんやりと外の景色を眺めているのが好きなような、おとなしい子供だった。天気の変化は、平穏な日常が崩れるようで好きだった。
　そんなことが、いつかないだろうか。
「よしあきー」
　階下から間延びした声が聞こえてきた。
「なにー」
「ホットケーキ何まーい？」
「三まーい」
「あーい」
　龍だ。龍の焼くホットケーキは、ふんわりと柔らかく、分厚くて美味しい。義明には、あそこまで綺麗に仕上げることは、到底できない。
　そろそろ降りようかと思い、はじめに開いたページのままの本にしおりを挟み、椅子を引いた。

「おう来たか」
「うん」
「クリームと、蜂蜜と、チョコレートソース」
「クリーム」
「イチゴと、イチジクと、ぶどう」
「イチゴとぶどう」
「ん」
　義明が席についたところで、横から皿が出される。ナイフとフォークを取ってから、飲み物がないことに気がついて、コップを取りに立ち上がる。
「スクランブルエッグとか焼こうか」
「いや、いいよ」
「そう。俺のもついで」
「牛乳でいい？」
「オレンジジュースで」
「じゃあセルフサービスね」
「やっぱ牛乳でお願いします」
　いただきまーす。
　刻みイチゴを少し端の方によけて、ナイフを入れる。龍が新聞を読みながらふと呟いた。
「そういえば、お前が家出してきたのって台風の日だったな」
「そうだっけ」
「そうだよ。びしょ濡れで、髪もボサボサだった。誰かと思った」
　他人事のように適当に相槌を打つ義明に、龍は肩をすくめた。しかし、思う。
　あの日起こったことは、あまり思い出したくない。けれど、龍、今目の前にいる樫木辰之進（かしきたつのしん）、こいつが自分を「助けて」くれたことは、鮮明に覚えている。
　あいつらはお前を殺したんだ。死ぬのなら、奴らを殺してから死ね。
　抱きしめられながら強く、激しく、まるで嵐のときの荒れ海のように囁かされたその言葉は、今もまだこの世を離れようとする心を繋ぎとめる、楔となった。
　イチゴの酸味が、クリームの甘ったるさと混ざって口の中に広がる。
「あのさぁ。俺思うんだ」
「なに？」
「なんていうか、お前、この世に順応できるタイプじゃないだろ」
「うん、そうだね」
　義明が答えた直後、ふっと明かりが掻き消える。二人は予期していたことのように冷静に、真っ暗なリビングを見回した。
「停電か？」
「停電だな」
「懐中電灯ってどこだっけ」
「俺取ってくるよ。龍はじっとしてて」
「ん」
　席を立ち、すたすたと台所に向かう。戸棚の扉を開けて、手持ちの懐中電灯を持って、ついでに本棚のほうの隣の扉付きの棚から、蝋燭とチャッカマンを取り出してテーブルに戻る。
「早いな」
「災害が起きた時のためにあちこちに置いてるんだ」
「頼もしいこった」
　蝋燭を立て、チャッカマンで火をつける。オレンジ色に近い、しかしそれよりも心理的なあたたかみのある色の静かな炎が部屋をぼんやりと照らす。
「あの時、俺はたしか何も話さなかったよね」
「ああ」
「それなのに龍は俺の考えてることがわかった。どうして？」
「勘だよ」
「勘か」
　そこで口を閉ざし、二人の間に沈黙がおりた。
　部屋の隅に目をやる。墨をたっぷりとこぼしたような漆黒から、目が慣れて段々と青い光が見えてくる。二階の小窓、ダンボールでも貼った方がいいかもしれない。
　雨戸が風に吹かれてカタカタと音をたてた。
「食べないのか」
「食べるよ」
　促されて一口大に切ったホットケーキを口に運ぶ。
「何かあるんなら、言えよ。思いは形にするのが大事なんだって、昔先生に教わった」
「龍、偽善者って言われない？」
「お前もそう言うのか」
「まさか。相手を偽善者と決めるのはいつだって恩を受けた本人だ。俺は龍を偽善者だなんて思ったことは、一切ないよ」
　信じてもらえなくてかわいそう。そう思ってしまう。唯一の理解者を哀れんでしまう。自分は相変わらず性根が腐っている。自分こそ偽善者と罵られるような人間なのかもしれない。
「わかった。何かあったら言うよ」
「無理強いはしないからな」
「妙に気を使うね。俺は、龍に言いたい範囲だけを言いたい時に言う、それでいいんだろ。俺、実はお喋りなんだよ」
「よく知ってる」
　こんなに暗くては読書もできない。義明は物思いにふけりながら黙々と朝食を腹に収めていき、牛乳で締めて皿を片しに台所へ立った。
一方、早食いでとっくの昔に食べ終わった龍は、今更睡魔が忍び寄ってきているようで、目をとろんとさせて宙を見ている。
「おーい」
「なに」
「呼んだだけ」
「彼女か」
「お望みのようだから、あの夜のことを話そう」
「えらく唐突だな」
「聞きたくないのか。そっか」
「いや」
　唇を舐める。龍は顎を引いて、にわかに、にやついた。
「聞こう。面白そうだ」
　義明も小さく微笑んで、口を開いた。

→中巻

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