#Plorog
年に一度どころではない。一年の内に五度、六度と来る。多い年は手の指をすべて使っても足りないほどの数が民を襲いに来る。
それが、この島の嵐だった。
「こりゃ、相棒を避難させといて正解だねぃ」
俺の家も瞬く間に倒壊。やはり、木の上に家を作ったのは不正解だったか。毎年、夏から秋にかけて大量の嵐が来る。いくら家を建て替えようと意味がない。ヤツはお構いなしに、俺の住処を奪っていく。
「うひゃあっ! 立ってるのもキツイさぁ!」
木の幹に必死にしがみつく。竜のように舞い上がる風は、しつこく俺を天の国へと誘ってくる。無論、そんな誘いに乗る気は微塵もない。
とはいえ、人間が自然に抗えるわけもなく。俺はあっけなく飛ばされた。
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今回は死んだかもねぃ。俺も不死身じゃないし。
そんな心配を嘲笑うかのように、朝は来た。遠くで鶏が鳴いている。
背中が痛い。頭がガンガンする。その上で寒い。起きるのが、この上なく怠い。目を開けるのも面倒さ。
生きてる。さすが俺。
「台風が来るたびに行方不明になるのやめてくれませんか?」
聞こえた声は、怒気をはらんでいた。
……お腹のあたりが重い。目を開けるのが怖い。
「これ以上、狸寝入りをするつもりなら、海賊に売ってしまいますよ」
「ヘビさんが言うと、本当にしそうで怖いさ!」
俺は勢いよく体を起こした。途端に走る激痛。そのまま倒れこめば、また激痛。
「まったく。急に旅してくると言ったかと思ったら、フラッと帰って来て。かと思えば、またフラッといなくなる。しかも、帰ってくるのはいつも台風の時期ときた。馬鹿も極めると怖いですね」
ヘビさんは、まるでゴミを見るような目で俺に向けてくる。目の前で俺が苦しんでいようがお構いなし。しかも、口から吐き出される言葉は次々と俺の心を襲ってきた。
「もう少し休んでいたください。あなたの相棒はいつもの場所に置いてあります。ああ、今は使用禁止ですよ。安心してください。手入れはしておきましたから」
話すだけ話して、ヘビさんは部屋を出て行く。
久々の布団は柔らかい。畳の匂いは落ち着くさぁ。
ヘビさんはミュージックカフェというものを運営している。ただ音楽を聴きたいだけの人も、演奏したい人も集まる場所。クラシックからロックまでなんでもこいだ。
ヘビさんは、そんな店の上に住居を構えている。
何を隠そう、ここがその住居。実際、今もかすかに誰かの歌声が聞こえている。風に乗ってくるこの声が耳に心地いい。
「直接聞きに行きたいさぁ」
多分、今行ったら殺されるけど。ヘビさんの話を信じるなら、俺の相棒も下にいる。ここには本棚が並べられているだけで、他に何もない。せめて、ラジオかテレビが欲しいさぁ。
残念ながら、俺のラジオは台風に飛ばされて死亡。ラジオって、結構軽いんだねぃ。
「ひーまー! 誰か相手するさぁ!」
布団の上でゴロゴロしていると、俺の目に窓が映った。
昨日の荒れた天気が嘘のように、太陽が笑っている。俺にこっち来いって言ってるみたい。
俺は本能に従うことにした。
布団を畳み、窓へと向かう。勢いよく横に引き、窓の桟に足を掛ける。そして、俺は体を宙に投げ出した。当然のごとく、体は落下。下に木があったから、幸い、地面と激突せずに済んだ。
自分の無事を確認すると、枝や幹を伝って下に降りていく。体が痛むが、我慢だ。
「うっし!」
地面に足が着く。脱出成功!
「よーし。どこに行こうかねぃ」
言いながら、走り出そうとした。次の瞬間、俺は人とぶつかった。
「っ!?」「わっ!?」
反動で尻もちを着く。一番痛かったのは、反射的に着いた手――と肩に挟まれた腕だ。
「〜〜っ」
声にならない悲鳴をあげ、痛みに悶える。俺は腕を押さえ、地面にゴロゴロと転がるという醜態をさらした。
「何をやっているんですか」
呆れたような声が聞こえた。おそるおそる声の主を見る。
仁王像を引き連れたヘビさんが、今にも人を殺さんと言わんばかりの雰囲気を携えていた。身体が震える。
「イルカさんとシシさんは、氷を持ってきてくれますか?」
「分かった」
俺とぶつかったと思しき人物の足音が遠ざかっていく。
呆れと怒りって混在するんだねぃ。なんて、どうでもいいことを考えながら、傷みを誤魔化す。
「起きられますか?」
頷き、体を起こそうとする。ところが、腹筋に力が入らない。腕も使い物にならない。よつまり、起きられない。
「だから、休めと言ったんです。少し、我慢してくださいね」
俺の治療してくれたり、面倒を見てくれたり……なんだかんだいって、ヘビさんは優しいさぁ。
気づけば、俺は宙に浮いていた。ヘビさんに横に抱かれている。もし、俺が女だったら、違和感なかったかもしれない。ヘビさんの顔は十分、イケメンの部類だと思う。その辺の女なら、喜ぶと思う。
でも、俺、男さぁ。普通に恥ずかしい。
「ヘビさん、持ってきたぞ……」
現れたのは氷を持った二人の少女。一人は赤髪セーラー服、もう一人は青髪パーカー。多分、どっちかが俺とぶつかった子。
ちなみに、赤髪の子は氷を落とし、青髪の子はじりじりと後ずさりをしている。
「イルカさん。悟ったような目で離れていくのをやめて下さい。シシさんも固まらないで」
青髪の子――イルカちゃんが「違うの?」みたいな顔で、首を傾げる。明らかに、そっちの人と思ってる反応さぁ!
「す、すまない」
シシちゃんも慌てたように、顔を背ける。
「二人とも落ち着いてください。彼が動けないようだったので、私が運んでいるだけです」
「姫抱きでか?」
「仕方がないでしょう。背負うのも難しいし、骨折の可能性もあるから、下手な運び方もできません」
ヘビさんが弁明をする。
「ああ、なるほど。それなら、救急車を呼んでおこうか?」
「いえ。彼に関しては、いくら病院に行かせてもキリがありませんからね」
ヘビさんは、ニッコリ笑って言った。
それでも、普通なら連れて行くもんさぁ。俺、そんなに病院行ってる? ……行ってるかもねぃ。
「そ、そうか」
シシちゃんが引きつった声を上げる。
幸い、店の外から二階に上がったから、客からの目を引くことはない。
「まったく」
「後は、私とイルカでやっておこう。ヘビさんは店に戻ったほうがいい」
さっきから、シシちゃんばかりで、イルカちゃんは口を開かない。ここまで、一度も声を聞いてないさぁ。
「そうですか? なら、お言葉に甘えさせていただきますね。よろしくお願いします」
部屋から出ていくヘビさんを見送った後、イルカちゃんが俺の腕を触ってきた。まだ痛む箇所を探り当てると、板を当て、包帯を巻いていく。
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作者名:書月 | 作成日時:2017年8月3日 23時