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それは嵐のように
シンと静まり返った真っ白な城内。その中で一室、正反対にもほぼ黒一色で染め上げられた部屋があった。差し色はというと、少しくすんだピンクと純白くらいか。


こんなにも城内が静かなことはそうそうない。いつも軽度の内紛が起こり、気が立ったリアル狂人達が暴れ散らかすからだ。つまり静かになるだけの大きな理由がそこにはあるということ。


そう、先程紹介した部屋の扉の前では、何人かの使用人達が目を閉じて聞き耳を立てている。半分開いたその扉から聞こえるのはピアノの音と低い歌声。


「〜♪」


この部屋はピアノが設置された数少ない部屋の内の一つ、黒の部屋だ。国家元首である彼が珍しく、本当に珍しくマトモにピアノを弾いているのである。しかも弾き語りなどどれほどレアなものか。


曲はラスサビへと向かう間奏に差し掛かる。シンプルながらも魅せ方を知る音色は聴衆を引き込んでやまない。そしてラスサビへと入ろうとしたところで__。


パァン、と1発。彼の黒髪をスレスレに銃弾が室内を貫通していった。勿論それは外したのではなく、スレスレで避けられただけである。


「……焼ぁきパァン……?」


『ごめぇん原人さん……』


銃弾の正体は彼の予想通り茶のライフルのものらしい。的確に頭を撃ち抜きに来る銃弾など黒を除けば茶くらいだから。インカム越しの幼い声に黒は怒りから来る笑みを浮かべて問いただす。気持ち良くなっている時の邪魔なのだ、そりゃあ怒るだろう。


「お前……お前さぁ、バカなの??射線こっちに入れんなって毎回毎回言ってるよなぁ俺」


『間違えた……』


「俺死にかけたんだけど?せっかくさぁ、人が気持っち良くなってる時にやることかお前ふざけんなよなぁ、オイ」


『え、何焼きパンまたやらかしたの?バリおもろいやん』


インカムに少々高めの声が加わってきた。関西弁混じりなこの声は赤のもの。他人の不幸は蜜の味、どちらも貶していると取れる率直な感想が限界の波に揉まれた彼らしい。いや、純粋に面白がっているだけかコイツ。


この感じ彼は茶のライフルの射線が逸れていることに気付けるくらいの距離にいるようだ。どこぞの青い大公ではあるまいし常識的な近いの範疇内だと思われる。


『つか俺今原人さんの部屋の方見てんだけどさ、そっち今こんそめさん向かってるよ』


「は、マジ?何しに来てんのアイツ」


『んーとね、何かマグカップ2つ持ってるわ。多分どっちかコーヒーでどっちかココア』


「有能じゃんアイツ早く来いって言っといて」


『でもぐっちもそっち行ってる』


「焼きパン」


『なに?』


「殺れェ……」


『わかったぁ』


直後、城内に発砲音と叫び声が響き渡った。さっきまで曲の続きを待っていた使用人達もさすがに持ち場へと逃げ出していく。あぁ、またか。先程までのピアノは嵐の前の静けさだったのだ。


やがてドタバタと喧しい足音が部屋へと近付いてきた。それが誰のものかなど言うまでもない、今しがた茶に頭を撃たれたばかりの深緑のもの。スニーカーの靴底がタイルを踏み鳴らしているのが手に取るように分かってしまう煩さだ。


「ゲンズィン!!??テメェコrrrrrrッラ何してくれてんだオイ!!」


「は?うるせぇわ○ねボケカス」


『アッハッハッハッハwwwちょっとマジ?焼きパンマジでぐっちのこと撃ってんじゃん(笑)』


『すげーわ焼きパンちゅ♡』


『ぅわ…………』


面白そうな状況に気付いたようで、黄緑と刈安の声もインカム越しに聞こえてきた。人の不幸を人一倍笑える黄緑と安定の刈安に多少の安心感が芽生えてくるのは何故だろう。長年の付き合いか。


全力でゲラゲラと笑い転げているのであろう。深緑の怒りの矛先が一気にそちらへ向き、緑同士の口喧嘩がそこで勃発しだした。


さらにそれをインカム越しに聞きながら他4人も面白さのあまり吹き出し始めて、ただの混沌(カオス)が出来上がってしまって。


「原人ー、ココア持ってき……ぐちつぼ煩っ」


「おせーぞこんそめー、天才かよお前月給下げとくわ」


「何でだよ(笑)」


来るまでの間に深緑の叫び声を聞いた挙句その直後に横を駆け抜けられたのであろう黄蘗がようやくこの部屋へ辿り着いた。まぁ即ちいい迷惑を被った可哀想なヒトである。


彼は盆に乗せていたマグカップを2つ、サイドテーブルへと置くとその盆を高々と掲げて深緑へとにじり寄った。彼は深緑との著しい身長差があるものの、著しい筋肉量の違いも持っているため流石の深緑も冷や汗流して後ずさり。


「こんそめ、Stay、ダメ、死ぬ」


『良いよこんそめ殺っちゃって』


「お前らは良いなぁ今ここに居なくてよぉ!!ホントマジ後で覚えとけよぶっ殺すかんな!!」


『お、いいよー最近貰ったジメチル水銀試してみたかったんだよね』


『俺もミニガンの練習したい』


『修理に出して帰ってきたばっかのRPGぐちつぼさんに使ってもいいならいいよ』


「洒落になんねぇ奴しかいねぇ!!」


「ぐっち何回死ぬんだろー」


ご覧、黄蘗以外のモノも大抵火力が高くオマケに怖いのが分かるだろう。どこからともなく撃たれた、などこの国内ではまだ優しい方であることが分かるだろう。


だがさすがの彼らも慈悲の心がない訳では無い。黄蘗ははぁ、と溜息をついて盆を下ろし、テーブルに置いた珈琲を一口、静かに啜った。こんなところで茶番を繰り広げるほど暇ではない。そしてようやっと深緑も気を緩めてソファへと座り込んで。


興醒めした他のモノ達も通信を切ったようで、城内には再び静寂が訪れた。そしてまた、ピアノの音と歌声が鳴り響く。


そうして逃げ出した使用人達も徐々に戻ってきた。

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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2022年3月7日 21時

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