こちら、俺は魔王で嫁が勇者で命狙ってくるってもう意味わかんないけど楽しくやってます。【名前変換オリジナルファンタジー】の番外編となります。夢主はおりませぬ。
それでもいいぜ!という方はそのままどうぞ!
アルくんの過去編、始まり始まり。
「何、兄上?」
「自分の部屋ぐらい、自分で片付けたらどうです?」
初夏のラギファルト大帝国、城付近に建てられた豪邸の中。橙色が基調の貴族らしい豪華な部屋は、数多の稚拙な絵が描かれた新聞紙やチラシによって覆いつくされている。その中心ともいうべき床に座るは、8、9歳くらいだろうか、クレヨンを持った小さな男の子。鼻にオレンジの跡をつけ、ドアの傍から注意をする兄に向け笑いかける。
「これが終わったらちゃんとやるって。ま、これだけ散らかせば兄上も一緒に片付けてくれるよねっ、やったー」
「なっ、まったく、もう……」
なんともいえない顔をしながらも、足元に散らばった新聞紙を拾い上げる声の主。歳は成人間近といったところの、長くさらさらの銀髪を一つに束ね、翠眼のきりりとした細身の青年。同じ髪色と眼の色を持つ男の子の、兄にあたる人物である。
よいしょ、と立ち上がり、兄に伴って片付け始めた男の子だったが、不意に床から顔を上げた。
「ねえねえ兄上。そういえば、今日のご予定は?一緒に遊べる?」
「ああ、はい。城仕え執事の試験期間も……結果はアレですけど、はい……済ませましたし、今日は空いてますよ」
ふわりと微笑んだ彼__アルフレッド__に、レオと呼ばれたその子、レオンハルトは全力で抱き着く。軽く受け止めて微動だにしないアルフレッドは、流石としかいいようがない。
「じゃあね!僕ね、兄上と行きたい場所あるんだよ!」
「何処ですか?」
「動物園!」
「……わあ、ここが動物園かあ、すごいなあ、初めて来たや!」
「これは一体……!?」
アルフレッドとレオンハルトが訪れたのは、一番近くの動物園。だがしかし。
動物がいない。
客の騒然とした具合を見るからに、動物は先ほど消えたばかり……それも、全ての動物が一瞬にして、同時にらしい。アルフレッドは周囲の言葉を聞き分け素早く把握し、弟の手を握る。
「レオ、帰りましょう。ここを動物園だと思っちゃ駄目です、動物が消えていますから」
「え?じゃあ何ここ、住宅不動産とか?」
「誰が猿山や檻の中に住みたがるんですか」
冗談だよ、と愉快そうに笑ってのけたレオンハルトだったが、周りを見回してこくりと頷く。
「誰かが動物を消したんでしょ?同時って聞いたから、きっと何かの魔法だよね。単独犯かな……何処かに売って大儲けとか企んでたり?悪者みたいだね!」
「貴方は、まったく……」
弟の自分にも劣らぬ観察力に絶句するアルフレッド。レオンハルトは無邪気に続ける。
「それで。兄上は僕だけ先に帰らせて安全を保障した上で、一人で動物探ししようとしたんでしょ。まったく、そんな楽しそうなこと一人でってずるいじゃん!」
「……そうですね。じゃ、一緒にやりますか。」
「そうこなくちゃ!」
兄弟は、動物園の管理室へと向かった。
簡素な作りの小さな部屋に置かれた、安価であろうビニール革製のソファに腰を据えた二人。反対側には動物園園長がはげあがった頭に浮かぶ汗を拭きながら座っている。作業員のような灰色の服には汗染みが多々あり、細縁のメガネを乗せた鼻先は脂ぎっている。思いっ切り中年な感じの小太りおじさんだ。
「いやはや、まさかかの有名な貴族様のご子息様がいらしてらっしゃるとは。光栄の極みにございますはい、しかしながらただいま立て込んでおりまして__」
「話は聞いてるよ園長さん。安心してよ、僕と兄上がいればなんだって解決しちゃうからさ!」
レオンハルトが勝手にそう見栄を張り、アルフレッドは隣で苦笑して流す。園長は少しの安心感を胸に笑みを見せ、それはそれは、と合いの手を打った。
「実は、思い当る人物は既に掴んでおりまして。ええ、それはそれは酷い奴なんです」
眉をハの字にした彼は、ハンカチで額の汗をぬぐいながら続けた。
「新人の飼育員でですね?挙動のおかしい女性がおりまして。動物を見ては何か考え込むような仕草を見せ、時にはぶつぶつと何やら独り言言ってるっちゅうもんで、ええ。彼女のことを調べてくれませんかねえ」
「なるほど。それで、その方のお名前は?」
「彼女の名前は____」
「すいません、貴女がアネッタさんでしょうか?」
ライオンの入っていた檻の前で立っていた妙齢の女性に、アルフレッドは声をかける。声をかけられたその人はバッと振り返ると、ぎこちなく愛想笑いをしてみせた。森の奥のような深い緑の髪が腰までおろされており、ところどころ緩く跳ねている。肌はやや青ざめており、紫の瞳の下にはうっすらとくまができていた。お世辞にも綺麗とは言い難い。
見た目よりも老けたかすれ声で返される。
「そうです……あなたは……」
「失礼しました。私はアルフレッド、後ろに控えているのが弟のレオンハルトです。少し、お話させていただいてもよろしいでしょうか」
「はい……でも、ここで……動物たちが戻ってくるのを、待ってるので……」
そう言って、ぎし、と檻を掴むか細い手。アルフレッドはそのままでも結構です、と質問を重ねる。
アネッタはしばらく淡々と答えていたものの、ふと話を区切った。
「私、犯人、知ってるんです____でも、言えないんです」
「えっ……えっ、なんで言えないの?誰かに脅されてるの?」
レオンハルトが弾丸のように問いただすも、アネッタは静かに首を横に振るだけ。アルフレッドはしばらく考えこんだ後、鞄から何かを取り出す。アネッタとレオンハルトがそちらに目をやると、彼は笑いかけた。
「アネッタさん、少々失礼しますね」
「え、何を……きゃっ」
アルフレッドはすさまじい勢いで彼女に化粧を施していく。ただし、それは彼女を綺麗にするものではなく、あたかも
「あ、兄上!?流石の腕前、なんだけど……なんで?」
アルフレッドは有無を言わさず化粧を施し終えると、やや悪戯めいた笑みでアネッタに言い聞かせた。
「さて、アネッタさん。私は貴女に暴力を振るって無理やり真相を吐かせました。ね、アネッタさん」
「……ありがとうございます。では、そのように」
(流石兄上。尊敬しちゃうなー)
レオンハルトがぽかんとするのを横目に、アネッタは口を開いた。
「犯人は、____」
「おや、アルフレッド様とレオンハルト様。それと……えっ、アネッタ、どうしたんだその顔は!?アルフレッド様、これは一体」
「非常に残念なんですが、園長殿。捜査は振り出しに戻ってしまいました」
「振り出しに!?それはそれは……いえ、調べていただけていることだけでも有難い。しかし、これ以上貴方方の手を煩わせるわけには……」
「ええ。非常に残念です。でも、良かったです。これ以上手を煩わせることなく済みそうで」
「?なんのことで……!」
アルフレッドは鎖で作った、即席の手錠を取り出す。目の前の、園長を見据えた。
「園長殿……いえ、盗賊団団長、ゲイガムル殿。貴方を私の家において捕らえ、然るべきところへ送らせていただく」
園長の動きが止まる。が、すぐに大笑いし始めた。目つきが変わり、楽し気にアルフレッドたちを見やる。
「流石、坊ちゃん方はすげえなあ。よくやるじゃねェか。アネッタもなあ、やっぱ仲間じゃねェ奴無理に使うんじゃなかった、始末しねェとだわ。盗賊団っての、お前さんよく見破ったじゃねえか」
「今朝新聞で端っこに載ってましたよ。随分と有名なんですね」
アルフレッドの発言に、レオンハルトは目を丸くする。
(朝、僕と一緒に絵を片付けてた時の一瞬で見たの?)
ゲイガムルはまた、豪快に笑った。動物園の作業服とは似合わない笑みだ。
「そんじゃまあ、知ってるよな。うちの団はなんせ団員が多い。それが売りだ!」
同時に、三人は大勢の盗賊に囲まれた。アネッタは肩をびくつかせ驚くも、兄弟はさして驚きを見せない。頭の後ろに手を組み、レオンハルトは歯を見せて笑う。
「なーんか隠れてるなとは思ってたよ。ねえ兄上、動物園てこんな感じ?」
「猿山の真ん中に入ったらこんな感じなんでしょうね。見学でもしますか」
素早くアネッタを人質にしようとする一人を、アルフレッドは軽く素手で薙ぐ。レオンハルトはアネッタの背後に回り、辺りに威圧をかけた。
「あの、あの……!」
「アネッタさんは警察をお願いします。携帯、持ってますよね?」
「はい!」
慌てて携帯を取り出すアネッタを見、再度向き直るアルフレッド。苦虫をかみつぶしたような顔をする長に、静かに言う。
「では、団長殿は私のお相手を」
数十分後、警察が駆けつける。そこには、倒れ伏す盗賊団団員、壁にめり込んだ団長。そして。
飼育員の女性と、彼女に化粧をする兄と、それを見守る弟の姿が確認された。
「本当にありがとうございます、私、何もできなくて……」
「いえ、警察も呼んでくださいましたし。それに、動物は絶対に無事です」
「どうして兄上?」
不思議そうに唸る弟に、言い聞かせるように語り掛ける。
「最初に彼女の手を見た時、わかったんですよ。アネッタさんは動物たちを大切にしていた。同時に消したのは盗賊団ですが、下準備はアネッタさんだった。彼女がいくら言いなりにならざるを得なくなってしまったんだとしても、動物たちが無下にされるような目には遭わせないハズです」
動物の行方がわかりました、という警察の証言。国の港の目立たない倉庫に、全ての動物がそれぞれ居たらしい。なかなか設備が整っていたらしく、具合の悪いものは居ないという。
感心するレオンハルトを満足げに見下ろすアルフレッドは、そのままアネッタに視線を移す。微笑んで、自身の目元を示した。
「ね。貴女の目のくまは、きっと寝ずに準備したんでしょう。私が貴女でもそうしますし」
「えっ、あっ、お恥ずかしい限りで……」
「でももう大丈夫です。鏡があったら見てみてくださいね……盗賊団逮捕ご協力感謝ってことで」
アネッタがきょとんとすると、爽やかに笑ってごまかした兄弟。その後、すぐに姿を消した。
彼女はふと、近場のトイレに行き、鏡を覗き込む。
「……あ」
そこには、可愛らしくメイクされた女性の姿があった。
その晩、アルフレッド宅にて。
「さっすが兄上!僕もうホントに尊敬ー!」
「いえ、私はそこまで凄くはないですよ。事実、城仕えの試験も結構微妙なところですし……」
そういいつつ、アルフレッドは試験結果の書類を見やる。そしてフリーズした。
『城仕え執事、合格。貴殿は試験こそ危うかったものの、それ以上の成果を動物盗難事件にて果たしたと聞いた。ぜひ仕えてほしいと思う。 魔王リスト』
*あとがき*
やっと書き終わった、死にそう。
ちょっと主人公が兄弟のどちらかが危ういところですが、まあ、はい!
あれですね、本編の更新が滞っていたのはですね、これ書いてたからでですね、決してこう面倒くさかったわけではなく(言い訳)。
ちなみに、下の絵でもそうなんですが、レオンハルトが髪がオレンジになったのは単に染めたからです、はい。
今回は初めて推理ものもどきを書いてみました!トリックも何もあったもんじゃないですが、お読みいただきありがとうございました!本編もばしばし頑張っていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!
2018年7月15日 モモハ
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モモハ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» おっふ、誤字は私の通常装備((ありがとうございます!えっ、ぜひぜひ描いてそして見せてくださいお願いしまふ( (2018年7月22日 11時) (レス) id: 7ea4a0fdca (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - (推しキャラ(アルフくん)を描きたいのに画力が追いつかず発狂しそうな今日この頃です( ´∀`)応援してます! (2018年7月22日 8時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - レスありがとうございます!ところで読み終わって感激し過ぎて忘れていたのですが、誤変換が… 「簡素な作りの〜」の段落で、「ビニール革性」→「革製」、「細渕の」→「細縁の」だと思われます… (2018年7月22日 8時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
モモハ(プロフ) - しぇるふぃあ。さん» そ、そこまで言ってもらえるとはほんとに恐縮です(*ノωノ)ありがとうございます! (2018年7月20日 13時) (レス) id: 7ea4a0fdca (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。 - んんんアルフ好き(( 兄弟ものも好き(( あっなんか好き(( すみません好きしか言えなくなってます。/描写が明確で、情景がクリアに浮かんできます!モモハ先生の文章あってのこの萌えだと思います…勉強になります…アルフくん短編ほんとにありがとうございました好き… (2018年7月19日 8時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:モモハ | 作成日時:2018年7月15日 18時