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前半はこちら→クラピカ誕生日記念小説2015前半 【クロクラ】
ちょっと遅刻してしまいました。
 風が吹いた。
 耳に、ぴゅうという音を残し、去っていく。
 踊る髪を抑えつけて頭を整理させる。
 どうも意識がはっきりしない。読書をしている最中に寝てしまったのか……。
 本のページがパラパラと音をたててめくれた。
 まだ空は明るい。十九時までは時間がありそうだが。
 時刻を確認しようとして、その声は聞こえた。

「クラピカ」

 ――パイロ。
 思考が止まる。目の前に立っているのは亡き親友の幼い頃の姿で。
「人形じゃないし、操られてもないよ。言うならば、幻、かな」
 目を閉じたまま儚く微笑む。
「これは……夢、なのか」
 問いに近い独り言にパイロは応えない。
「お前の夢なんて、もうずっと見ていないのに……」
「それは、今日がクラピカの誕生日だからじゃないかな。お誕生日、おめでとう」
 何年振りかに聞くパイロからのお祝いの言葉だ。
「ふ、ふざけないでくれ。誕生日とか関係ないだろ……!?」
「……うん。クラピカにどうしても伝えたいことがあって」
 ぎしり、とベンチが小さく軋む。隣に懐かしい体温を感じる。
 遠くに聞こえていたはずの喧騒が、風の音に包まれて全く聞こえない。
「クルタ族の事件のことは、あまり気にしないでほしいんだ」
「……そんなことっ」
「急には忘れられないよね。じゃあ、ちょっと話変えるね」

「僕、クラピカのこと好きだったよ」

「だから分かるんだ。恋をするのはとてもステキなことだって」
「クラピカにも、思い切り恋してほしい。相手があの人っていうのは、ちょっとびっくりだけど、でも応援するから」
「クラピカには、僕の分まで幸せに生きてほしい」
「過去は気にしないで。クルタ族の皆はクラピカのこと恨んだりしない。それはよく分かってるでしょ?」
「今を、自分を、大切にしてね」

 パイロの言葉が一つ一つ胸に刺さり、溶けていく。
「ほんとうに、クロロを好きでいても、良いのか……?」
「うん。いつも目の不自由な僕のことを助けてくれたクラピカが、不幸な人生を歩むなんて僕が許さないからね」
「何を……いつも、助けてくれたのは、お前の方で、俺は迷惑かけてばっかりだった……」
「僕は、クラピカの後をついていって、時々背中を押しただけ。だから、今回もそう。道を開いて進んでいけるよ」
 気配でパイロが立ち上がったことを察する。
「待って、くれ……俺を独りに、しないで、くれ……」
 引き留めたいのに、顔を上げることができない。
「大丈夫。クラピカはもう、独りじゃないんだよ」

 風が止んだ。
 涙を拭うと、パイロはもうそこにはいなかった。



「クラピカ……スーツでも違和感ないな。ドレス着てないからとはいえ、男性として通るとはな」
「それを言わないでくれ。自分でも軽くショックを受けている」
 何が悲しくて男二人で高級レストランに足を運ぶというのだ。
「でもこれはこれで良かったんだろうな。ドレスを着ると目立つだろうから」
「私がドレスを着ると変だとでも言いたいのか」
「違う。綺麗すぎて、だ。決まっているだろ」
 そんな台詞をさらりと吐けるクロロが羨ましい。照れを誤魔化すためにワインを一口飲む。
「……よくあるお世辞だな」
「それはよく言われるという意味ではないよな……?」
「違う。ありきたりだということだ。……このワインは良い品なのか?」
「良いものだと思う。でも俺の好みじゃないな」
「さっきソムリエに要望を出していたじゃないか。それにテイスティングもしていた」
 赤ワインか白ワインか、甘いものか辛めのものか、など言っていたと思うのだが。
「したけど、あれは美味しいかどうかではなく問題があるかどうか、を確かめるものなんだ」
「なるほど。勉強になった」
「こういうことには疎そうだな」
「来る機会が少ないからな。少しは調べたのだが……」
 ここ最近、夏の行事に参加するかしないかで忙しいのだ。
「……何で黙っている?」
 グラスを持ったまま固まっているクロロに声をかける。
「いや……クラピカが俺との食事を楽しみに調べてくれたのかと思うと、涙が」
「やめろ気持ち悪い」
 本気で言っているわけではないのだろうが、恥ずかしいを上回って吐き気がしそうだ。
 クロロはグラスをくるくる回しながらガラス越しの夜景を眺めている。
 どことなく寂しそうなのだが、まさか真面目に言っていたのでは……?

「夜景ってどう思う?」
 しばらくして、クロロが口を開いた。
「さぁ。綺麗なんじゃないか」
 言ってから窓の外を見る。
 眼下に光が星のように並んでいる。夜景の中では美しい部類に入るのだろうが。
「建物は綺麗だけど」
 その言葉に目線を上にあげる。
「あぁ。空はなんというか……重たい」
 光る都会の上にのしかかっているような、そんなふうに見える。
「夜景より君の方が綺麗だ、なんて言っても嬉しくないよな」
「そうか? 嬉しいから本やドラマで多用されるのではないか?」
「疑問形ということは、クラピカは嬉しくないんだろう?」
 クロロがこちらを向く。
 光が在って無いようなその瞳は、いつの日かのパイロの目と同じだと思った。

「……今日、不思議な夢を見たんだ」

 急な切り出しになってしまったが、このタイミングで話すのがベストだと思った。
「夢?」
「昔の親友に会った夢だ。あいつは、自分は幻だと言ったが」
 「昔の親友」がもう死んでいることを察したのだろう、クロロが神妙な顔つきになる。
「で、クラピカに何を言った?」
「……過去は気にするな、と。今を大切にしろ、幸せになれ、と……」
 夢なのに、まるで現実に会ったことのように思い出せる。
「そうか。クラピカが泣いたのはそういうことだったのか」
「え……」
 そんなに泣いた覚えはないのだが、クロロなら一粒の涙でも気付いてしまうのだろう。
「クラピカが涙を流すなんて何事だろう、と気になったけど、訊かなくてよかった」
「あぁ。私も話して良かったと思っている」
「俺も、言いたいことがある」
 何だ?、と言おうとして、間髪入れずにクロロが続けた。

「俺がクラピカを好きだっていうのは分かっている、よな?」

 突然の告白に肩が強張る。
「でも、俺はクラピカの家族や友人を殺した張本人だ」
「俺には家族の大切さはよく分からなかった。育ってきた環境が特殊だったからな。でも大切にするというのは、俺がクラピカにしていることと同じなんだろう」
「クラピカも、団員達も大切だ。大切な人のためなら物は盗むし人は殺す」
「それが駄目だというのは、どうしても理解できない」
「クラピカのためなら何千人何万人は殺せるな」
「俺が殺したのはクラピカの大切な人だが、俺にとっての他人だ」
「……こんなふうに思うのは間違っているか?」

 クロロの言うことに、何故か憤りを感じない。
 クロロが、本当に答えを求めていることが伝わってきた。
「私も、いつか、クロロと何人かの人を天秤にかける時が来たら、迷わずクロロを選ぶと、思う」
「でも、クロロにはそうしてほしくない」
「そう言われても、お前はすぐにはそうしようと思わないだろう」
「だから……少しずつでいいから……私が」
「分かった。俺から言わせてくれ」
 一瞬、時が止まる。
 雑音が遠のいていく。

「好きだ、付き合ってくれ」

 心臓の音が体中に響く。



「もちろん……喜んで」



 許されない恋なんて、きっとないのだ。







*あとがき*
 夜景とか一生懸命調べていたら、親に「デートでもするのか」と言われました。
 すごく恥ずかしいです。
 ってか男子と二年話してないのに、彼氏いるはずないだろー!
 と、いうわけでしてクロロやパイロといった男性陣の喋り方はもちろん、恋をしているクラピカの心情も上手く書けませんでした。
 そこらへんは、脳内補正してください。お願いします。
 駄文でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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ばにゃにゃ☆シュガリティ(プロフ) - コメントありがとうございます。嬉しいです。ご期待に添えたなら良かったです。 (2015年4月5日 10時) (レス) id: f6c53a1791 (このIDを非表示/違反報告)
ミミ - えっと……初めまして!キルクラ小説をたまたま見つけて期待をしてたものです!やっぱり期待しててよかったです!いい作品を有難うございます!! (2015年4月5日 4時) (レス) id: 8351b6cec9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ばにゃにゃ☆シュガリティ | 作成日時:2015年4月5日 3時

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