クラピカ誕生日記念小説2015【クロクラ】(前半)

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Happy Birthday Curarpikt!

＊

ここ最近占いツクールで活動していませんでしたが、クラピカの誕生日を祝うためだけに復帰しました。
去年はキルクラを書いたので、今年はクロクラです。パイロもちょこっと出てきます。
※クラピカ女の子設定です。ご注意ください＜(_ _)＞
来年はヒソクラかな……。

　聞き覚えのないアラームで目を覚ました。
　耳元で振動しているスマートフォンを手に取るとディスプレイに文字が表示された。

『お誕生日おめでとうございます』

　目が日付に引き寄せられた。今日は4月4日、私の誕生日だ。
　待ち受け画面を表示すると受信メールの数がいつもより多いことに気付いた。
　仕事仲間からと、ゴンとキルアとレオリオ……あと、クロロ。
　クロロと「仲直り」したのも確か一年前だったな。どこからか私の誕生日を聞きつけてきて――
　手が震えて画面が切り替わった。クロロから電話だ。
　寝起きで話すなど面倒なので本当は無視したいところなのだが、クロロには緋の目を探すのに協力してもらっているし、おそらく誕生日を祝うために電話してきたのだろう。
　切る理由はない。
　耳にスマートフォンを当てた。

『もしもし。おはよう』
「おはよう。で、何の用だ」
『お誕生日おめでとう、クラピカ』
「ありがとう。で、それだけか？」
『今すぐにでも切りたいって感じだ。でも確認したいことがあってな。今日の約束、ちゃんと覚えてるか？』
「あぁ。覚えている。夜の七時にランドスケープホテル」
『そうそう。良かった覚えててくれて。あそこの食事って美味しいんだ』
「そうだな」
『行ったことあるのか』
「民間人に扮して要人警護をした際に、少しだけ食べた」
『そうなんだ。行ったらワインを飲もう』
「そういえば、今日で二十歳か」
『でも、お酒は飲んだことあるだろう？』
「他国は十八歳で成人のところが多いからな。ワインは大丈夫なのだがビールはあまり好きではないな」
『ビールとジンジャーエールなんかどうだ？』
「カクテルか。今度試してみる」
『今度お勧めのバーに連れていくよ』
「……クロロ、お前が親切にしてくれているのは分かるが」
『かつての宿敵と仲良くするのは気が進まない？』
　クロロの声色が変わったような気がした。
『分かるよ。クラピカがそう思っているっていうのは』
　違う。私が思っているのではない。
　私が旅団に復讐しようと思ったのも、緋の目を集めようと思ったのも、私の意志ではないのだ。
『でも、俺はクラピカが』
「いや、いい」
　クロロの言葉を遮る。その先を聞くのが怖い。
「別にクロロのことを嫌っている訳では、ないから。話が長くなってしまったな」
『……じゃあ、夜に会おう』
「あぁ」

　通話が切れた。
　画面がメールの受信トレイに戻った。
　ゴンとキルアとレオリオからは、来年はパーティーしよう、といったメッセージが送られてきていた。
　クロロとの約束があったのでパーティーは断ってしまった。十時から仕事が入っていて、夜しか空いていないのだ。
　クロロはアラームの音楽は気に入ってもらえたか、と送ってきた。
　私のスマートフォンを勝手にいじったのだろう。確かに、落ち着きがありつつも目覚まし向けである良いメロディーだったが、設定を変えるのは止めてほしい。ウイルスでも入れたのだろう。後で言っておかなければ。
　この間も見知らぬアプリが追加されていて驚いた。そのアプリは仕事で大活躍したので咎めてはいないのだが。
　ウイルスに強い機種のはずなのにこの有り様。機械に頼っていて対策を怠ったのがいけないのか。
　でもクロロが悪いソフトをアンインストールしたとか言っていたな。クロロが一番のウイルス対策ソフトかもしれない。

「またクロロのことか……」

　苦笑が歪んだ口の端から漏れた。
　クロロは私に好意を向けてきてくれる。
　それに気付いていながらも一年間何も発展しなかったのは、私がクロロが嫌いだからではない。
　むしろ、私はクロロのことが好きだ。
　以前からクロロをどう倒すか、と考えていた。しかし、一年前から考える内容がすり替わった。
　クロロに向ける憎悪が好意に変わっただけのこと。
　その「好き」が友人としての域を超えている、とは思うのだが、先を考えようとすると思考を邪魔される。

　――七年前の血塗れの光景に。

　クルタ族の死者の声から逃れられない。
　耳障りではない。時折、親友だったパイロの声が聞こえるから。
　でも、いつも見守られているというのは、いつだって監視下に置かれているというのと同義なのだ。
　私がクロロを好きになるのはいけないこと。
　有り得ないこと。
　許され難いこと。

「……はぁ」
　一つ伸びをして堅苦しい思考をシャットアウトすると、仕事用のスマートフォンの着信音が鳴った。

＊

　机の上に地図を広げる。

「再来月のスタンレー・フェスティバルにボスが参加する。それにあたり身辺警護の打ち合わせを行う」

　はい、とバラバラに返事が返ってくる。
「まず、交通機関と滞在ホテルの手配」
「えー空港までは飛行船で、ホテルやフェスティバル開催地までの行き来は車で行います。ホテルは空港の近くのVIP室を予約しています。アカシアホテルと連携をとってVIP室のあるフロア全体を警備します」
「フロア一帯を貸し切ることはできないのか？」
「現在交渉中です」
「分かった。次に主催者との提携」
「はい。席周辺に一般人や記者はもちろん警備員も立ち入らせないようにと指示を出しました。パレードの詳細なスケジュールと照らし合わせ移動時間を調整します。現在、スケジュールの不備がないか調査中です」
「分かった。現地に向かい事前調査をすることは可能か？」
「空港、ホテル、イベント会場は可能ですけれども、道路が一部工事中です。どうしましょうか」
「工事についての問い合わせはしていないのか？」
「地域住民の反対運動でなかなか進んでいないとのことです」
「では、工事の進捗具合でどのルートが安全か、調べておいてくれ」
「承知いたしました」
「他にこの場で言うべき報告はあるか」
「あ、ボスがレストランの変更を希望しています」
「待って。その件についてはもう解決済みよ」
「別の階のレストランになったんです。報告書に書いてあると思います」
　手元の資料をめくる。
「……確認した。他には」
　誰も手を挙げない。無さそうだ。
「では先ほど上がった道路以外の通り道を確認しよう。主な場所を地図に書き込んでくれ」
　ボディーガード達がペンを片手に地図の周りに集まった。
　その様子を見て一歩下がると一人が近づいてきた。

「リーダー。今日ぐらい休んでくださいよ」
「誕生日と仕事は関係ないと思うが」
「いつも働き過ぎてて気が引けます。あとは僕がやりますから。少しぐらい信頼してください」
　少しばかり怒ったような表情を見せる。
「……分かった。お前に頼む」
「任せてください。あと、これ、ささやかな誕生日プレゼントです」
　紙袋を渡された。
「クッキーと紅茶の銘柄十選です」
「ありがとう」
「いえ。さぁ、野郎ども！　身辺警護の打ちわわわを」
「噛むなよ！」
　どっと笑いが起きる。
　ハンター試験で巡り合えた仲間たちも、ここの仕事仲間たちも、とても良い人たちだ。

＊

　クロロとの約束の時間まで三時間ある。
　予定では仕事の後すぐにランドスケープホテルに向かうはずだったのだが、一度家に帰ってもいいかもしれない。
　いや、家に帰っても特にすることはないし、駅の周辺でのんびり過ごすことにしよう。
　門に向かって歩く。広い庭だ。ところどころに庭師らしき人影が立っている。
「クラピカさん、送りましょうか？」
　その中の一人がこちらに手を振ってきた。運転手だ。
「お願いしよう」
　受け答えしながらも歩く。運転手は煙草を吸いながら話しかけてくる。
「駅までですか？」
「そうだ」
「承知しました。煙草、吸います？」
「遠慮する」
「煙草苦手なんですか」
「あぁ」
　煙草の煙の臭いが嫌いなのだが、運転手は吸うのをやめない。
「彼氏さんは吸わないんですか」
「は？」
　思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「もしかして、彼氏いないんですか？」
　小馬鹿にしたように言われ、乱暴に言い返す。
「いないが。恋愛にうつつを抜かしているほど暇ではないのだ」
「はぁ。確かにお忙しそうですな」
　門のそばに置かれた車に乗り込む。
「私もねぇ、若い頃は仕事仕事で恋人を作るなんて考えていませんでしたよ。でも好きな人ができてからは、仕事も上手く運ぶようになったんですよ」
「そうか」
「そうなんですよ。……ところで、そのプレゼントは誰に貰ったんですか？」
「リンセンだ」
「やっぱりリンセンさんか……」
「何だ？」
「あ、いや、何でもありません。誕生日プレゼント用意出来なくてすみませんね」
「構わない。気を遣わせて悪いな」
　それにしても、誰にも誕生日を教えた覚えはないのだが、一体情報源はどこなのだろう。

＊

　見知らぬ公園に着いた。噴水がシンボルらしく、噴水の周りで人々が楽しそうに話している。
　あの後、運転手の思い出語りがヒートアップし、「妻と出会ったのはこの公園でしてね」と駅から少し離れた公園まで送られた。
　特に行きたいところも無かったので良かったのだが、目的地まで連れて行かない、などあっていいのだろうか。
　……今ここで文句を言っても仕方がない。読書でもしよう。
　といっても噴水の周りには座る場所がなく、それに少々騒がしい。
　この公園は広いようなので、まだ中にはベンチ等があるだろう。
　静黙な場所を目指し、歩く。

　季節は春。異国の文化である「お花見」をしに、花が咲いている木の下で人だかりができている。
　私が読書できる場所は、この枯れ木の下しかなかった。
　剥き出しになった枝、疲れ切った幹。この古木だけとても寒そうだ。
　どことなく、古木と同じように劣化したように感じるベンチにゆっくりと腰を下ろす。
　鞄から本を取り出し、文字列に目を落とした。

＊

　後半に続きます→クラピカ誕生日記念小説2015【クロクラ】[後半]

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