今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:3,338 hit
――綺麗な人だな。
最初は、ただ純粋にそう思っただけなのに。
・・・いつからだろう。
風になびく髪の香りが、色っぽく感じるようになったのは。
深い海を連想させる青い瞳に、吸いこまれそうになるのは。
雪のようにな白い肌に、触れたいと思うようになったのは。
「あー・・・ダメだな」
意味もなく口が動く。
あの人のことを想うといつもこうなるんだ。何故か鬱になる。
それは暗い人だからという訳ではない。むしろ自分には明るすぎるんだ。でもあの人はオレから見て明るいだけで、世間から見たら自分と同じ「暗い」に分類されてしまうのだろう。
キルアはそれに納得がいかなかった。
いや、違和感に耐えられないんだ。
闇の世界に堕ちていくクラピカと。ゴンに導かれて光へと進むオレと。
一見近づいているように見えて遠ざかっている。すれ違ったわけでない。永遠に広がる血の世界で、二人はとうにお互いを見失っていた。
――諦めようとしたのになぁ・・・。
ハンター試験、最後の関門。
押さえていた素の自分が出てしまった時。
・・・オレを警戒していた、あの青い目を見た時。
苦しかった。
たった数日でオレはあの人に、思った以上に引き込まれていたんだ。
でも、気付くのが遅すぎた。磁石の同じ極みたいに、近づけない。
試験会場の扉を押す、血に染まった手に絶望を覚えた。
――もう会えないだろうな。
未練を残さないよう「あれは恋ではない」と自分自身に言い聞かせていた。
正直、どんな拷問よりも辛かった。
だから、家にゴン達と一緒に来ていると聞いて信じられなかった。
それぐらい、嬉しかった。家から出るのを阻止してきた奴らの言うことなんて耳に入らなかった。
「携帯電話は持っているか?」
街へと向かっている最中、凛とした声に話しかけられて、心が高鳴った。
「うん」
顔は赤くなってないよな。オレ乙女かよ・・・。
何故だか悔しくて、舌打ちして、それを聞いて「どうかしたか?」と顔をのぞきこまれて。
何で照れてんだよ・・・とまた舌打ちしそうになる。
そんな、オレにとっての幸せな時間は、あっという間に過ぎ去って。
・
「来週、クラピカの誕生日だよな?」
天空闘技場。
オレの部屋に遊びに来ていたゴンに話しかける。
「そうだったんだ! キルア、よく知ってるなぁ」
ゴンのからかいにはもう慣れた。
・・・そう、ゴンはオレの気持ちを知ってる。
「電話して、予定確認したら? オレは怪我したとか言って、 二 人 き り で会えばいいじゃん」
二人きり、を強調して言うゴン。
「でも、おっさ・・・レオリオは?」
レオリオはハンター試験のとき、よく一緒にクラピカと行動してたし、誕生日に会ったりとかしそうだ。
するとゴンはその言葉を聞き腹を抱えて笑い始めた。
「キルアァ・・・レオリオももう分かってるよ・・・!」
笑いを堪えようとし、最早泣きそうな声になっているゴンを見て、キルアは耳まで真っ赤になっていた。
この様子からするに、ゴンがレオリオに教えたわけではなく、レオリオが自分で気づいたんだろうな。
「あーもう静かにしろよ! 電話かけてくる!」
バタン、と強引に閉めたその後ろで、ゴンはまだ笑っていた。
・
『もしもし、キルアか?』
久しぶりに聞く声は前と変わらず透明で。
・・・前よりずっと、深く聞こえた。
「うん。あのさ・・・来週の金曜日、会えない?」
『金曜日というと、4月4日か? 別に構わないが、何かあるのか?』
「4月4日」と言ってしまうと誕生日のことだとバレると思って、わざわざ「金曜日」と言いなおしたのに『何かあるのか?』と訊かれるとは。
・・・もしかしたら誕生日じゃない?
「4月4日って、クラピカの誕生日だよな?」
『確かにそうだが・・・それがどうした?』
聞き間違えじゃない。
そうなると・・・クラピカの故郷では誕生日を祝う習慣がなかったのかも。
「いや、別に・・・。じゃあオレ、そっち行くから」
『えっと、すまないが、今念の師匠と住んでいてな・・・私がそちらに行こう』
「・・・・・・」
念の師匠と?
男なのか女なのか?
二人で? それとも他に弟子が?
その弟子の性別は?
どのくらい前から一緒に住んで――
『ん、どうしたキルア?』
「あ、いや。何でもない」
気になることはたくさんあるけど、質問しちゃダメだ。
この気持ちがばれてしまうかもしれない。いや、その前に「しつこい奴」と思われ、嫌われてしまうかも。
『ではまた後で連絡する。・・・ゴンは元気か?』
「あぁ・・・」
ここは嘘吐きの自分に任せる。
「こないだの試合で大怪我してさ。でも医者が言ってるより早く治りそうだな」
『そうか。お大事にと伝えておいてくれ』
・
「なんだって?」
部屋に戻るとあぐらをかいてテレビを見ていたゴンが、首だけをこっちに向けた。
「んーお大事にだってさ」
「キルア・・・そうじゃなくてクラピカの予定」
「え、あ、大丈夫だってさ!」
「キルアってさ、いつからそんな恋する乙女――イタッ!? なにすんだよ!」
「変なこと言うからだ! バーカ」
「変なのはどっちさ! キルアのバーカ!!」
その言い合いは、ズシが様子を見に来るまで納まらなかった。
・
朝からずっとそわそわしているキルアを見て、ゴンは二ヤついていた。
というか、電話で会う予定を決めた時から緊張している。オレの部屋に来て何故だかアドバイスを求めてくるし、今日に備えていろいろと買い物に行ったりしている。
客観的に見て一言。
――惚れすぎでしょ。
「じゃあゴン、静かにしてろよな」
「分かってるって、キルア。楽しんでね」
「あぁ」
立ち去ったキルアの背中を見て、ポツリと言う。
「・・・あの服着たクラピカ、見てみたかったな〜」
・
天空闘技場近くにある噴水広場。待ち合わせはここだ。
良い意味で目立つその人はすぐ見つかった。
太陽に照らされる短い金髪。前のと違う青い民族衣装は、それをよく引き立てている。
――もっと見ていたい。
そう思ったけど話をしたいという気持ちが勝った。
「クラピカ!」
「キルア」
にっこりと微笑むその姿にどきりとしてしまう。
雲ひとつない空のような、明るい青色の瞳を縁取る長い睫毛が揺れる。
「行こうぜ」
それ以上そのひとを見ていられなくなった。
だって、更に綺麗になってるなんて考えてもなかったから、心の準備が出来てなかったんだ。
つまり、理性が・・・。
・
自分の部屋に着くと、キルアはソファに、クラピカと向かい合う形で座った。
ベッド脇に置いておいた、 橙色の袋。
今着てほしいけど・・・どういえばいいんだ。
まずどうやって渡そう・・・。
「そういえば、ゴンは今どこに?」
――閃いた。
「怪我してて、今別の部屋に居るよ。会えはしないけど電話して話す?」
クラピカの返事を聞かずに、ポケットから携帯を取り出し電話帳を開く。
『もしもし、着替えてもらった?』
「いや・・・まだ。だから・・・」
『代わりにオレが話せばいいの?』
今日のゴンは何故か大人びている気がする。
「うん」
『キルアったら照れ屋――』
最後まで聞きたくなくて耳から離した。
「はい」
携帯をクラピカに渡す。
・・・微かに触れた細い指が、ひんやりとしてて気持ち良かった。
「もしもし、ゴンか? 怪我は・・・」
「元気そうでなによりだ。あぁ、そうだな。ありがとう」
「・・・プレゼント?」
「ふむ、それはいいのだが何故――」
眉を寄せたままクラピカは固まった。
「・・・切られた」
そう言って携帯を渡された。
「ゴン、なんて言ってた?」
すると目の前の白い顔は花が咲くように笑った。
「わざわざ私のためにプレゼントを用意してくれたそうだな。感謝する」
・・・いつもは人形みたいな仏頂面だから、その大きな目を少し細めて、口角を上げる姿に見惚れてしまった。
それに、声の感じも違うんだ。誰かの悪ふざけを咎める鋭い声も好きだけど、柔らかい方がいい。
そんなことを思いつつ、服の入った袋を取り出した。
「当たり前じゃん。今日は誕生日なんだからさ」
「今日」と「誕生日」の間に「好きな人の」を入れたかった。
プレゼントを渡すと、クラピカは「ありがとう」と言った。
「ゴンに言われたが、着替えた方が良いのか?」
「う、うん。オレ、部屋出るから」
あの服を着たクラピカを想像して――取り乱さないよう、キルアは握り拳に力を入れた。
・
後半→クラピカ誕生日記念小説 【キルクラ】 後編
最初は、ただ純粋にそう思っただけなのに。
・・・いつからだろう。
風になびく髪の香りが、色っぽく感じるようになったのは。
深い海を連想させる青い瞳に、吸いこまれそうになるのは。
雪のようにな白い肌に、触れたいと思うようになったのは。
「あー・・・ダメだな」
意味もなく口が動く。
あの人のことを想うといつもこうなるんだ。何故か鬱になる。
それは暗い人だからという訳ではない。むしろ自分には明るすぎるんだ。でもあの人はオレから見て明るいだけで、世間から見たら自分と同じ「暗い」に分類されてしまうのだろう。
キルアはそれに納得がいかなかった。
いや、違和感に耐えられないんだ。
闇の世界に堕ちていくクラピカと。ゴンに導かれて光へと進むオレと。
一見近づいているように見えて遠ざかっている。すれ違ったわけでない。永遠に広がる血の世界で、二人はとうにお互いを見失っていた。
――諦めようとしたのになぁ・・・。
ハンター試験、最後の関門。
押さえていた素の自分が出てしまった時。
・・・オレを警戒していた、あの青い目を見た時。
苦しかった。
たった数日でオレはあの人に、思った以上に引き込まれていたんだ。
でも、気付くのが遅すぎた。磁石の同じ極みたいに、近づけない。
試験会場の扉を押す、血に染まった手に絶望を覚えた。
――もう会えないだろうな。
未練を残さないよう「あれは恋ではない」と自分自身に言い聞かせていた。
正直、どんな拷問よりも辛かった。
だから、家にゴン達と一緒に来ていると聞いて信じられなかった。
それぐらい、嬉しかった。家から出るのを阻止してきた奴らの言うことなんて耳に入らなかった。
「携帯電話は持っているか?」
街へと向かっている最中、凛とした声に話しかけられて、心が高鳴った。
「うん」
顔は赤くなってないよな。オレ乙女かよ・・・。
何故だか悔しくて、舌打ちして、それを聞いて「どうかしたか?」と顔をのぞきこまれて。
何で照れてんだよ・・・とまた舌打ちしそうになる。
そんな、オレにとっての幸せな時間は、あっという間に過ぎ去って。
・
「来週、クラピカの誕生日だよな?」
天空闘技場。
オレの部屋に遊びに来ていたゴンに話しかける。
「そうだったんだ! キルア、よく知ってるなぁ」
ゴンのからかいにはもう慣れた。
・・・そう、ゴンはオレの気持ちを知ってる。
「電話して、予定確認したら? オレは怪我したとか言って、 二 人 き り で会えばいいじゃん」
二人きり、を強調して言うゴン。
「でも、おっさ・・・レオリオは?」
レオリオはハンター試験のとき、よく一緒にクラピカと行動してたし、誕生日に会ったりとかしそうだ。
するとゴンはその言葉を聞き腹を抱えて笑い始めた。
「キルアァ・・・レオリオももう分かってるよ・・・!」
笑いを堪えようとし、最早泣きそうな声になっているゴンを見て、キルアは耳まで真っ赤になっていた。
この様子からするに、ゴンがレオリオに教えたわけではなく、レオリオが自分で気づいたんだろうな。
「あーもう静かにしろよ! 電話かけてくる!」
バタン、と強引に閉めたその後ろで、ゴンはまだ笑っていた。
・
『もしもし、キルアか?』
久しぶりに聞く声は前と変わらず透明で。
・・・前よりずっと、深く聞こえた。
「うん。あのさ・・・来週の金曜日、会えない?」
『金曜日というと、4月4日か? 別に構わないが、何かあるのか?』
「4月4日」と言ってしまうと誕生日のことだとバレると思って、わざわざ「金曜日」と言いなおしたのに『何かあるのか?』と訊かれるとは。
・・・もしかしたら誕生日じゃない?
「4月4日って、クラピカの誕生日だよな?」
『確かにそうだが・・・それがどうした?』
聞き間違えじゃない。
そうなると・・・クラピカの故郷では誕生日を祝う習慣がなかったのかも。
「いや、別に・・・。じゃあオレ、そっち行くから」
『えっと、すまないが、今念の師匠と住んでいてな・・・私がそちらに行こう』
「・・・・・・」
念の師匠と?
男なのか女なのか?
二人で? それとも他に弟子が?
その弟子の性別は?
どのくらい前から一緒に住んで――
『ん、どうしたキルア?』
「あ、いや。何でもない」
気になることはたくさんあるけど、質問しちゃダメだ。
この気持ちがばれてしまうかもしれない。いや、その前に「しつこい奴」と思われ、嫌われてしまうかも。
『ではまた後で連絡する。・・・ゴンは元気か?』
「あぁ・・・」
ここは嘘吐きの自分に任せる。
「こないだの試合で大怪我してさ。でも医者が言ってるより早く治りそうだな」
『そうか。お大事にと伝えておいてくれ』
・
「なんだって?」
部屋に戻るとあぐらをかいてテレビを見ていたゴンが、首だけをこっちに向けた。
「んーお大事にだってさ」
「キルア・・・そうじゃなくてクラピカの予定」
「え、あ、大丈夫だってさ!」
「キルアってさ、いつからそんな恋する乙女――イタッ!? なにすんだよ!」
「変なこと言うからだ! バーカ」
「変なのはどっちさ! キルアのバーカ!!」
その言い合いは、ズシが様子を見に来るまで納まらなかった。
・
朝からずっとそわそわしているキルアを見て、ゴンは二ヤついていた。
というか、電話で会う予定を決めた時から緊張している。オレの部屋に来て何故だかアドバイスを求めてくるし、今日に備えていろいろと買い物に行ったりしている。
客観的に見て一言。
――惚れすぎでしょ。
「じゃあゴン、静かにしてろよな」
「分かってるって、キルア。楽しんでね」
「あぁ」
立ち去ったキルアの背中を見て、ポツリと言う。
「・・・あの服着たクラピカ、見てみたかったな〜」
・
天空闘技場近くにある噴水広場。待ち合わせはここだ。
良い意味で目立つその人はすぐ見つかった。
太陽に照らされる短い金髪。前のと違う青い民族衣装は、それをよく引き立てている。
――もっと見ていたい。
そう思ったけど話をしたいという気持ちが勝った。
「クラピカ!」
「キルア」
にっこりと微笑むその姿にどきりとしてしまう。
雲ひとつない空のような、明るい青色の瞳を縁取る長い睫毛が揺れる。
「行こうぜ」
それ以上そのひとを見ていられなくなった。
だって、更に綺麗になってるなんて考えてもなかったから、心の準備が出来てなかったんだ。
つまり、理性が・・・。
・
自分の部屋に着くと、キルアはソファに、クラピカと向かい合う形で座った。
ベッド脇に置いておいた、 橙色の袋。
今着てほしいけど・・・どういえばいいんだ。
まずどうやって渡そう・・・。
「そういえば、ゴンは今どこに?」
――閃いた。
「怪我してて、今別の部屋に居るよ。会えはしないけど電話して話す?」
クラピカの返事を聞かずに、ポケットから携帯を取り出し電話帳を開く。
『もしもし、着替えてもらった?』
「いや・・・まだ。だから・・・」
『代わりにオレが話せばいいの?』
今日のゴンは何故か大人びている気がする。
「うん」
『キルアったら照れ屋――』
最後まで聞きたくなくて耳から離した。
「はい」
携帯をクラピカに渡す。
・・・微かに触れた細い指が、ひんやりとしてて気持ち良かった。
「もしもし、ゴンか? 怪我は・・・」
「元気そうでなによりだ。あぁ、そうだな。ありがとう」
「・・・プレゼント?」
「ふむ、それはいいのだが何故――」
眉を寄せたままクラピカは固まった。
「・・・切られた」
そう言って携帯を渡された。
「ゴン、なんて言ってた?」
すると目の前の白い顔は花が咲くように笑った。
「わざわざ私のためにプレゼントを用意してくれたそうだな。感謝する」
・・・いつもは人形みたいな仏頂面だから、その大きな目を少し細めて、口角を上げる姿に見惚れてしまった。
それに、声の感じも違うんだ。誰かの悪ふざけを咎める鋭い声も好きだけど、柔らかい方がいい。
そんなことを思いつつ、服の入った袋を取り出した。
「当たり前じゃん。今日は誕生日なんだからさ」
「今日」と「誕生日」の間に「好きな人の」を入れたかった。
プレゼントを渡すと、クラピカは「ありがとう」と言った。
「ゴンに言われたが、着替えた方が良いのか?」
「う、うん。オレ、部屋出るから」
あの服を着たクラピカを想像して――取り乱さないよう、キルアは握り拳に力を入れた。
・
後半→クラピカ誕生日記念小説 【キルクラ】 後編
このホムペをお気に入り追加
登録すれば後で更新された順に見れます
1人がお気に入り
1人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あしゅ - もう……… 可愛すぎて……好きです…。 (2019年4月3日 22時) (レス) id: 394eaf948d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような占いを簡単に作れます → 作成
作者名:ばにゃにゃ☆シュガリティ | 作成日時:2014年4月4日 0時