【nrsnr】Another Prinse -親愛なる貴方へ。-【2434】

何で自分が？何で自分だけ？
そんな疑問が、頭の中で何度も巡る。
訳の分からない靄で、頭の中だけでは無く目の前まで白く濁ってしまう。
こんな自分に残っている物なんて…。

一部を後ろで纏めた金髪。碧色の大きな瞳。
きちっとしたブレザーの下にゆったりとしたピンクパーカー。
殆どの人はあまり目にした事は無いだろう、この見た目。
声の演技がしたくて、気合いを込めて
着飾ったこの姿でバーチャル世界に降り立った。
「一緒に頑張ろ、なるなる。」
「この四人で活動するんか。
はるた、俺めっちゃ楽しみなんやけど！」
白を基調とした豪華な服を着た彼の言葉にそう返し、
近くに立つ大きな翼を拵えた金髪の男と
黒髪に白メッシュの少年にそれぞれ目配せする。
揃って大きな舞台に上がったと思ったら、直後に暗雲が立ち込めた。
コラボする前に四人での活動が、突然途絶えてしまったのだ。
同時に後ろ二人は脱退、一人席を残した彼も
SEEDsの二期生として、パジャマに着替えて再デビューした。
そして、俺は…。

四ヶ月に渡る修行を終え、待っていてくれた皆のもとに姿を見せる。
…デビュー時とは大きく変わってしまった、その姿を。
軽く結んだ髪は黒くなり、ピンクのばってんヘアピンと
同じ色の片メッシュが施されている。
服装も可愛らしさの残る姿から、
シンプルながら格好良さもあるものになっていた。
これもこれで好きだが、出来るなら元々の姿に戻りたい。
運営にも直訴した。でも、その返事はあやふやで。
けれど、俺には待っていてくれた人がいた。
「おかえり。
最初期の4人のうち、迎えてあげられるのが1人しか残ってなくてごめんな。」
「……ただいま、ただいまっ…！」
そう言ってくれた彼が、その胸に飛び付いた俺の頭を優しく撫でてくれた。
「また一緒に頑張っていこ。
ほんとにおかえりなさい。」
嗚咽しながら、降ってくる優しい声をただ聴いていた。

彼に誘われて参加した、第一回マリカにじさんじ杯。
そこで俺は名誉ある優勝を手にする事が出来た。
後から知った事だけど、主催者である先輩は
俺の実力を買ってくれていたらしく、
今大会随一のダークホースだと紹介してくれた。
でも、その後の風当たりは強いままで。
＜こいつ誰？＞＜俺は〇〇の優勝が見たかったのに。＞
正直＜まあそうだよね。＞と言った感想しか出て来なかった。
だから、受け止めた上で見返す事しか出来なくて。
だからプラスに考えた。
ずっと続けていれば、彼や皆みたいに
応援してくれる人が増えるかも知れない。
今に見てろよ！絶対推させてやるからな！

時は流れて、二年後の六月七日。
つまりはデビュー前日。
皆に秘密で魔法の蛇口を作った俺は、人知れず前の姿に戻った。
彼にだって連絡した。
彼の誕生日配信で逆凸してきたから、
今俺が同じ事しても許してくれるだろう。
大量のスパチャから逃げ切り、その日の配信を終える。
明日に備えて、また準備しないと。
俺は蛇口を使って、今の姿に戻った。
その後に近くのケージにいるギラファノコギリクワガタに目を移す。
なあギラファ。俺、ちゃんと前に進めてるよな。

今でこそ、事務所やファンの皆に報いたいと思える。
見捨てないでくれてありがとう。
応援してくれてありがとう。
本当にそれに尽きる。
どこまで続けられるか分からないけど、
これからも死なない程度に頑張るから！
諦めずに足掻いていれば、きっと報いる事が出来るから。
本当に、＜為せば成る＞んだ！！