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あら確か小学生の時やったやろうか。父さんに興味もあらへんかるた練習場に無理矢理連れて行かれた時、彼女に出会うた。

 大岡紅葉。

その名の通り、美しおして可憐な少女。
かるた札だけを見つめる彼女に、僕は一瞬で心奪われた







あぁ、初恋だったんだなぁって。
金曜ロードショー記念に書いてみました。初の男主なので可笑しいところもあるかもです。紅葉ちゃんファンがもっと増えることを祈って。


***




放課後の屋上というのは、どうしてこうも寂しいのだろうか。空には朱を流したような、鮮やかで美しい夕焼けが広がっている。




「───ウチ、失恋したんよね」


彼女にしては自信なさげな声で僕はただどうしていいか分からなくなった。紅葉ちゃんのしっかり手入れされた綺麗な髪が、ふわりと風に揺れる。事故防止用の柵に身を預け、弱々しく微笑む彼女はこの世で一番危うく、美しいものに思えた。


「それって……紅葉ちゃんの初恋の服部平次くんのことか?」

「……初恋は全部ウチの勘違いやったんです。ほんまにあほやなぁ……笑っておくれやす」


笑え、なんて笑えるわけないじゃないか。
紅葉ちゃんの澄み切った瞳から涙が零れ落ちた。
僕はどうしていいのか分からず、ただその場に立ち尽くす。こんな時、モテる男は気のきいた言葉一つ投げてあげられるんだろうけれど僕は女の子への口説き文句なんて全く知らないし、涙を拭ってあげることなんて出来るわけがない。大好きな子が泣いているというのに、なんて酷い奴なんだろう。僕は。


「これでも、平次くんのことえらい好きやったんよ。ウチの初恋やもん。いつ会うても変に思われへんように努力して女の子らしゅうなって」


紅葉ちゃんの声が苦しそうなものへと変わっていく。嗚呼、泣かないで紅葉ちゃん。君には笑っていて欲しいんだ。ずっと笑顔でいて欲しいんだ。僕は唇を噛み締める。僕が服部平次なら、絶対に君を選ぶのに。君を抱き締めてあげられるのに。どうして、僕が紅葉ちゃんの初恋ではなかったのだろう。紅葉ちゃんが僕を好きになってくれたらいいのに。そんなことを考えてしまう僕は矢張り弱虫だ。自分から行動出来ない癖に紅葉ちゃんにばかり求めてしまう。こんな僕が紅葉ちゃんに愛されるわけがないって、分かってるのに。



*


彼が戸惑うたように眼鏡をかけ直すのが見えた。YOUくんは優しいから、ウチの話を聞いてくれる。思えば、彼の優しさには昔から助けられてばかりやった。ウチが平次くんのことを好きやと伝えた時も嬉しそうに笑うて頑張ってや、と背中を押してくれた。名頃先生が亡くなってウチが泣いてん時もただ黙って側に寄り添うてくれた。


「ほんまにかんにんな」


ウチらしゅうもあらへん、弱い声が出た。
恋は盲目。恋は人をあかんくする、ちゅう言葉通り、今のウチは恋の所為で可笑しゅうなってんみたいだ。いっそのこと、このまま屋上から飛び降りてやろか思うほどには、弱うなっとった。最早、今のウチに絶対女王の風格やらあらへんやろう。伊織の前では泣けへんから、ウチはYOUくんを頼った。困った時だけYOUくんに頼るなんて申し訳あらへん思うた。やけど、それ以上に対等に話せるYOUくんに話を聞いてほしかった。


「紅葉ちゃんにとって服部平次はすべてやったんやなあ」


そう、ウチの世界にとって平次くんがすべてやった。初恋、なんて可愛い言葉ではなおされあらへんほど、彼を愛しとった。やけど、それもぜんぶ、ウチの勘違いやった。ただの勘違いで数十年想い人を追いかけたばかな女。まるで、喜劇のようだ。


「恋って人を可笑しゅうすんでなあ。僕も、好きな子がおる」

「だれどす?」

「言えへん。せやけどえらい可愛い子やで。
気強いように見えて、ほんまは繊細で、誰よりも優しおして……ぼくの、初恋。やけど、その子は全然僕を見てくれへん。いつだって、僕以外の人を見てん」

「……YOUくんの良さを分からへんなんてアホな女の子やなぁ。その子」


ウチが少し笑うと、YOUくんは驚いたように目ぇ開いた。


「……やけど、素敵な子やで」


そう言うたYOUくんの目はほんまに優しおして、嗚呼彼を好きになって彼に愛されることが出来たらどれだけ幸福なのやろうとさえ思った。






*


紅葉ちゃんは世界一美しい生き物だと僕は思う。
花に声があったら、きっと紅葉ちゃんのような透き通った声をしていて、紅葉ちゃんはこの世の美しいモノ全てで作られた存在なのだとさえ思って疑わない。だって紅葉ちゃんはそれくらい綺麗だから。紅葉ちゃんにとって、服部平次が自分の世界のすべてのように、僕の世界は紅葉ちゃんがすべて。だから、紅葉ちゃんには笑顔になってほしい。……だから───



「紅葉ちゃん、何言うてんや」



僕は自分の想いを隠し通す。



「紅葉ちゃんの服部平次への気持ちはそんな呆気なく終わらせてしまうものだったんか? まだ失恋したと決まった訳じゃないやろ。紅葉ちゃんにもチャンスはきっとある」

「……でも、ウチは……」

「当たって砕けろや。失恋したら僕が慰めてあげるさかい。兎に角、そんな簡単に諦めるなんて絶対クイーン、大岡紅葉の名が廃るで! 勝ち取ってくるんや、紅葉!!」


僕は大声でそう叫んだ。
大声を出したことなんて滅多に無いから、すぐに息が切れる。はぁはぁ、と呼吸を整え、恐る恐る紅葉ちゃんの顔を見た。


「……YOU、くん」


呆気に取られたような、驚きを隠しきれない様子で紅葉ちゃんが僕の名を口にした。そして瞳に溜まっていた涙を袖で拭うと僕に歩み寄って来た。


「YOUくん、おおきに……せやね、こんなのウチらしくあらへんよな。分かりました───かるたも恋もこの大岡紅葉が勝ち取ってやります!」

「せやせや、その意気や紅葉ちゃん!!」

「そうと決まれば特訓やな! YOUくんも来る?」


僕が黙って首を横に振ると、紅葉ちゃんは頷き、楽しそうに屋上から出て行った。あぁ、なんてバカなことをしたのだろう、僕は。でも、紅葉ちゃんの笑顔が見れて、良かった。



「わが袖は、潮干に見えぬ。沖の石の人こそ知らね。乾く間もなし」


頬から、冷たい何かが零れ落ちた。
嬉しいのに、こんな気持ちになるのはきっと夕日の所為だ。





.







.








***
紅葉色に染まる。終わりです。
ちょっと切ないラストでしたね……YOUくんが紅葉ちゃんと結ばれるハッピーエンドもいいかな、と思ったのですが、紅葉ちゃんにはただ一途に服部くんを想っていて欲しかったし、YOUくんにはそんな紅葉ちゃんの背中を押してほしかったので。哀ちゃんの「【名探偵コナン】君を拐うと決めた日」は数ヵ月後ルパン一味となった主人公くんが哀ちゃんと再会しそうなんですけどこの主人公くんはただひたすらに紅葉ちゃんを想い続け、隠し続けないといけないので辛いですよね。こういう短編はまた作るかもです。次は歩美ちゃんかなー


***

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柊あんず(プロフ) - 宮川春乃さん» コメント返信遅くなってしまって本当に申し訳ありません…!共感いただけて嬉しいです。私も紅葉ちゃんが大好きです!! (2019年12月16日 23時) (レス) id: 5d7d3376c6 (このIDを非表示/違反報告)
宮川春乃 - 切ないです…私も紅葉ちゃん好きなので共感できます! (2019年11月24日 18時) (レス) id: 248d3c8423 (このIDを非表示/違反報告)
柊花恋(プロフ) - 裕佳梨さん» コメントありがとうございます〜!おぉ、仲間が……!!はい、紅葉さんは天使です間違いないです(真顔)紅葉さんは本当に魅力的なキャラクターだと思います。なのでもっと彼女の良さが分かる人が増えてほしい…… (2018年7月18日 22時) (レス) id: 44b21f9a9c (このIDを非表示/違反報告)
裕佳梨 - めっちゃ泣けます!紅葉さん可愛いですよね!天使! (2018年7月1日 18時) (レス) id: a3edb60187 (このIDを非表示/違反報告)
柊花恋(プロフ) - 瑠璃さん» コメントありがとうございます!紅葉ちゃん素敵ですよね……京都女子ってだけでもう最高なのに性格と容姿がもう……もっと紅葉クラスタが増えても良いと思う……ありがとうございます! (2018年4月21日 13時) (レス) id: 44b21f9a9c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花恋 | 作成日時:2018年4月20日 13時

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