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始まりは本当に些細なことだった。
赤葦が部活が忙しく私はバイトを詰め込んでいて、お互いに時間が合わず学校の違う私達は中々会えずにいた。「会いたい」なんて甘い言葉を言うようなカップルでもなく、けれど久しぶりに休日が被って。
デートに行けるとなったことに心の中でかなり舞い上がりながら、少し早いけど服を選んだりした。
そして当日、楽しみにしながら待ち合わせ場所で待っていたけど赤葦は来なかった。1時間、2時間、3時間と待っても来ない上に、電話しても出ない。
赤葦は約束を守る人だから、もしかしたら来るんじゃないか。なんて期待をしてもう一時間待ったけど、来ない。何かあったのかな、とメールを開いた途端、目尻に一瞬なにかが見えて目で追う。
そこには部活着の赤葦と、綺麗な女の人がいた。
あぁ、そういうことか。と変にすんなり納得している自分が自分じゃないみたいで、こんなに冷静なことに少し恐怖さえ覚えたくらいだった。
赤葦の乗っていたバスは一瞬で通り過ぎたけれど、なぜかスローモーションのように見えて表情がよく読み取れた。
なんであんなに笑ってるの、赤葦。私の前じゃあんな風に笑ってくれないのに。すぐ怒るじゃん。小さいことでグチグチ言って、意地悪なことばっかり言うのに。
本当はあれが赤葦の愛想笑いだなんて、分かってる。ただの嫉妬だけれど、連絡のひとつくらいしてくれてもいいじゃん。ずっと待ってたんだよ、私。
もういいや、なんて家に向かう。
最悪の気分のまま、天気は曇りだった。
▽▽▽▽▽
「明けましておめでとう〜!」
「もう2月だけどね!」
あの後友達から来た新年会の誘いにやけくそでオッケーして、居酒屋でお酒を乾杯している現在に至る。
私の座っているソファの列にはかわいらしい女の子達が座っていて、目の前には同い年くらいの男の子達が。なに、なんでこうなったんだ。
私が想像していた「新年会」とは程遠く、誘ってきた友人を睨むとごめんごめんと笑いながら顔の前で手を合わせてきた。「こうでもしなきゃYOU来ないから」って。
案外嫉妬深い彼を思い出しつつ、空気を悪くさせないよう隙を見て帰ろうと考える。お金だけ置いて、トイレって言って帰れば別にバレないかな。あ、でもいくらぐらい出せばいいんだろう…。
軽く自己紹介が終わって、コップの氷を崩した。
「YOUちゃん、隣いい?」
「え?えっと…」
「写真撮ろー!」
軽いノリでほぼ無理やりのツーショット。あ、なんかすごい顔引きつっちゃってる。って思ったけれど拓也(多分)さんは酔っててあまり気付いてないらしい。
少し近い距離に、赤葦が見たらきっと何されるか分かったもんじゃないなと苦笑い。そもそも合コンに来ていることがバレた時点でもう怖いけど。
みんなとの連絡先の交換タイムの時はうまく端っこでジュースを飲んで、ぼーっと帰るタイミングを伺っていた。
「お!みんなー、もう一人来るって!」
「えー!ほんと?」
「YOUちゃんとの写真送ったら速攻行くって来た。それまでずっと断ってたのにさ〜」
その言葉に隣の彼を慌てて見ると、へらりと笑って「なに、相手気になる?」なんて言いながら携帯をチラつかせた。
「ちょ、人の写真を勝手に…!」
「大丈夫大丈夫、こいつイケメンだし」
「それ別に関係な…えっ、」
その人のトーク画面には"赤葦京治"の名前。
言っていた通り、はじめの方に私と撮った写真を送った途端、断っていた誘いを〈やっぱ行く〉と一言だけ返事をしていた。絵文字もないあたりが彼らしかった。
……って、そんな事考えてる場合じゃない。ここにくるってどうしよう、絶対怒ってる。すっごい怒ってる。
「っすみません、それって何分前…」
「…ん?おっ、赤葦ー早いな!」
久しぶりに見る私服姿の赤葦がそこにはいて、顔が見れなかった。かっこいい、なんて女子が騒ぐ。
いつもだったら心の中で賛成してるところだけれど、今はそんな余裕もない。どこの席に座ろうか迷っている赤葦を機に、誰かが「席替えしようか」なんて持ち出す。
どこからか出てきたくじ引きを使って、席替え。また端っこの方がいいな、なんて思っていると、男の人(名前忘れた)と赤葦の間だった。…最悪だ、爽やかな笑顔が逆に怖い。縮こまって一人ジュースを飲んでいる私に、左側から肩に手を回される。
やばいやばい、赤葦の前でそんなことしたら…
「YOUちゃんかわいーね」
「…え、はは……」
「ねー、2人で抜け出さない?」
途端にガシャン、と赤葦がタイミングよく箸を落とす。それをテーブルの下に屈んで拾った時、耳元で囁かれる。
「行ったら許さねぇから」
クールだ大人だなんだ言われている赤葦だけど、結構彼は単純でわかりやすい。嬉しかったら顔が緩むし、怒っていたら口が悪くなる。だから今の赤葦は……
「ご、ごめんなさい」
「えー?振られたー!」
めちゃくちゃ怒ってる。話しかけられたりした時すごい笑顔で返してるけど、何年も付き合ってるから怒りが滲み出てるのが分かった。
それに内心すごく焦るけど、そんなこと全く知らない左側の相原さん(さっき聞いた)は馴れ馴れしくずっと話しかけてくる。その度に赤葦の期限は悪くなる一方で。
「今彼氏いるの?」
「え、えーと……」
「好みのタイプってなに?」
「別にそんな……っ、」
ぐっ、と赤葦が足をぴったり寄せてきて、思わず固まる。
相原さんは不思議そうに聞き返してきたけれど、赤葦は何も無いかのように振舞っている。相変わらず演技が上手くて怖いな、と改めて思う。
それから赤葦は私が他の人と話すたびに脚を触ってきたり靴を踏んできたり、肩をぶつけてきたり。
何がしたいのか分からないけれどとにかくちょっかいばかりかけてきては私はそれを隠すのに必死だった。改めて本当に彼は怒っているのだと確認する。
結局隙を見て帰ることもできず、最後まで居た。
▽▽▽▽▽
「じゃあお開きってことで!」
「えー、二次会やらないの?」
「俺明日仕事だし」
なんだか盛り上がるメンバーを目尻に、帰るに帰れなくて固まる。そりゃすぐにでも帰りたいけれど一応奢ってもらっちゃったし、挨拶はしなきゃ。
ひと段落つくまで待っていると誰かに肩を掴まれる。
「あの、もしよかったら連絡先…」
「YOU」
「帰るよ」と短く、挨拶もなしに無愛想に私の腕を掴んで歩き出す赤葦。話しかけてきたその人は私達二人の顔を呆然と行き来して見て立ち尽くしていた。
そりゃそうか、さっきから一切話してなかったのに呼び捨てだし腕引かれてるし。
明らかに怒りが滲み出ている彼の大きな背中を見つめて、少し強めに掴まれている手首を見る。解けないくらいには強くて、多分そこまで気が回らないんだろうし言っても辞めてはくれない。
「…赤葦、」
「……」
「どこ向かってるの」
「私の家、こっちじゃないんだけど」見上げてそう言えば
ただ一言。
「俺の家です」
▽▽▽▽▽
「…ん、ぅあ、」
「浮気ですか」
「ちがッ、…ひ、」
家に着いて玄関に入った途端。
噛み付くような、まるで自分の欲望だけに任せたキス。噛んだり舐めたり、いつもはあまりしないキスマークも飽きるくらいもうつけられた。
いやだ、こんなの。
胸板を押しても腕を掴んでも、現役アスリートはビクともしない。強く引っ張られそのまま床に強く背中を打つけれどそれに怒る暇もなくまた噛みつかれる。しかも、絶対跡が残るように意識してつけてる。
「ん、ぅぐ、う、ぅ、あ…っ」
「声出してくださいよ」
「っやだ、やだやだってあかあ、…ぅ」
足の付け根あたりをぐりぐりしたり、優しく触ったり。びくびく震えるのを楽しそうに目を細めて見る赤葦を、目に溜まる涙越しに見る。
やばい。これ最後までするパターンじゃ…
「今度出掛けませんか、ですって」
「……え?」
「…あいつか」
そう言って見せてきたのは私の携帯で、さっきの合コンの人からのLINEだった。名前を見る限り、多分最後の声をかけてきた人だと思う。赤葦が眉を寄せて不機嫌そうに舌打ちをする。
血が出そうなくらい強く首を吸われて、背中が反る。
「へぇ、連絡先教えたんスか」
「お、しえてな……」
そう乱暴にベッドに投げられて、赤葦の体重が腕にのしかかった。痛いけど、焦りの方が強い。
驚きと痛さと怖さと怒りとで頭がぐちゃぐちゃで、どうするべきかも分からずにただされるがままの状態になってしまう。力で反抗なんて叶うわけないし。
「やだ…っ」
「…なんで、泣くんですか」
「こわい、赤葦…やだ」
ピタリと彼の動きが止まって、視界が涙で具にゃりと歪んで見える。悲しそうな顔をしているのが分かった。
意地悪なことばっかりしてたけど、赤葦は優しかった。いつもペースを合わせてくれてて、待ってくれた。なのにこんな無理矢理なんて、赤葦のことを怖くなってしまいそうでそれが一番いやだった。
溢れる涙に、彼は呆然とする。その顔は少し冷静さを取り戻したような顔で。
「話、聞いて……待ってよ」
「…だって、アンタは何も言わないから」
「赤葦だってそうじゃん!」
突然大声をあげた私に驚いたような顔でこちらを見る。目に溜まった涙を袖で拭きながら彼を見た。
「今日ずっと待ってたのに来ないし、なんか女の人といるし、自分の気持ち何も言ってくれないし、待ってって言ってるのに全然聞いてくれないし、連絡のひとつくらいしてくれてもいいじゃん…」
息が苦しくて、頭がガンガンする。
こんなに長く喋ったのは久しぶりだし、なにより本音をぶちまけたのは初めてだった。赤葦はなんとなく、泣きそうな顔をしていた。
それに驚いて固まると肩に頭を預けられる。
「…連絡は、すみません。送ったんですけど電波が悪くて、さっき見たら未送信になってました」
「…………」
「急遽練習試合が入ったんです。先輩の引退試合も近いし行かないわけにはいかなくて…それで、未送信だったのに全然気付かなくて、俺の確認不足でした。」
肩に赤葦の熱が籠る。掴まれていた手首はいつの間にか離れていて、見ると少し赤くなっていた。
多分彼もこんなに長く話すのはあまりないのだろう、頭のいいはずなのに何度も言葉につっかえていた。それがなんだか胸が苦しくなって、手に力がこもった。
「女の人は、ただのマネージャーです」
「……」
「不安にさせてたらすみません、でも俺浮気なんてしたことないしこれからもするつもりは…」
「わかってる、ごめん、私も…言葉が足らなかった」
顔を上げた赤葦の頭を撫でると一瞬目が揺れてから、思いっきり抱き締められた。ちょっとだけ痛いけど、今はその痛さが心地よくて。
彼の身体に埋まった顔を上げて息を吸うと、唇が優しく降ってきて重なる。
「でもあなたも他の男にベタベタさせるのはどうかと思います。俺、今にも相手殴りそうでした」
「そんなこと言ったら赤葦もじゃん!さっきとかさ!」
「ええ、あなたへの仕返しです。それとこの間同じバイトの人に告白されてましたよね」
「なんっ…で知ってんの!!」
饒舌が戻った彼の肩を叩くとまたその手が掴まれて、薄い唇を押し付けられる。
そのキスはさっきとは違って、酷く優しかった。
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始まりは本当に些細なことだった。
赤葦が部活が忙しく私はバイトを詰め込んでいて、お互いに時間が合わず学校の違う私達は中々会えずにいた。「会いたい」なんて甘い言葉を言うようなカップルでもなく、けれど久しぶりに休日が被って。
デートに行けるとなったことに心の中でかなり舞い上がりながら、少し早いけど服を選んだりした。
そして当日、楽しみにしながら待ち合わせ場所で待っていたけど赤葦は来なかった。1時間、2時間、3時間と待っても来ない上に、電話しても出ない。
赤葦は約束を守る人だから、もしかしたら来るんじゃないか。なんて期待をしてもう一時間待ったけど、来ない。何かあったのかな、とメールを開いた途端、目尻に一瞬なにかが見えて目で追う。
そこには部活着の赤葦と、綺麗な女の人がいた。
あぁ、そういうことか。と変にすんなり納得している自分が自分じゃないみたいで、こんなに冷静なことに少し恐怖さえ覚えたくらいだった。
赤葦の乗っていたバスは一瞬で通り過ぎたけれど、なぜかスローモーションのように見えて表情がよく読み取れた。
なんであんなに笑ってるの、赤葦。私の前じゃあんな風に笑ってくれないのに。すぐ怒るじゃん。小さいことでグチグチ言って、意地悪なことばっかり言うのに。
本当はあれが赤葦の愛想笑いだなんて、分かってる。ただの嫉妬だけれど、連絡のひとつくらいしてくれてもいいじゃん。ずっと待ってたんだよ、私。
もういいや、なんて家に向かう。
最悪の気分のまま、天気は曇りだった。
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「明けましておめでとう〜!」
「もう2月だけどね!」
あの後友達から来た新年会の誘いにやけくそでオッケーして、居酒屋でお酒を乾杯している現在に至る。
私の座っているソファの列にはかわいらしい女の子達が座っていて、目の前には同い年くらいの男の子達が。なに、なんでこうなったんだ。
私が想像していた「新年会」とは程遠く、誘ってきた友人を睨むとごめんごめんと笑いながら顔の前で手を合わせてきた。「こうでもしなきゃYOU来ないから」って。
案外嫉妬深い彼を思い出しつつ、空気を悪くさせないよう隙を見て帰ろうと考える。お金だけ置いて、トイレって言って帰れば別にバレないかな。あ、でもいくらぐらい出せばいいんだろう…。
軽く自己紹介が終わって、コップの氷を崩した。
「YOUちゃん、隣いい?」
「え?えっと…」
「写真撮ろー!」
軽いノリでほぼ無理やりのツーショット。あ、なんかすごい顔引きつっちゃってる。って思ったけれど拓也(多分)さんは酔っててあまり気付いてないらしい。
少し近い距離に、赤葦が見たらきっと何されるか分かったもんじゃないなと苦笑い。そもそも合コンに来ていることがバレた時点でもう怖いけど。
みんなとの連絡先の交換タイムの時はうまく端っこでジュースを飲んで、ぼーっと帰るタイミングを伺っていた。
「お!みんなー、もう一人来るって!」
「えー!ほんと?」
「YOUちゃんとの写真送ったら速攻行くって来た。それまでずっと断ってたのにさ〜」
その言葉に隣の彼を慌てて見ると、へらりと笑って「なに、相手気になる?」なんて言いながら携帯をチラつかせた。
「ちょ、人の写真を勝手に…!」
「大丈夫大丈夫、こいつイケメンだし」
「それ別に関係な…えっ、」
その人のトーク画面には"赤葦京治"の名前。
言っていた通り、はじめの方に私と撮った写真を送った途端、断っていた誘いを〈やっぱ行く〉と一言だけ返事をしていた。絵文字もないあたりが彼らしかった。
……って、そんな事考えてる場合じゃない。ここにくるってどうしよう、絶対怒ってる。すっごい怒ってる。
「っすみません、それって何分前…」
「…ん?おっ、赤葦ー早いな!」
久しぶりに見る私服姿の赤葦がそこにはいて、顔が見れなかった。かっこいい、なんて女子が騒ぐ。
いつもだったら心の中で賛成してるところだけれど、今はそんな余裕もない。どこの席に座ろうか迷っている赤葦を機に、誰かが「席替えしようか」なんて持ち出す。
どこからか出てきたくじ引きを使って、席替え。また端っこの方がいいな、なんて思っていると、男の人(名前忘れた)と赤葦の間だった。…最悪だ、爽やかな笑顔が逆に怖い。縮こまって一人ジュースを飲んでいる私に、左側から肩に手を回される。
やばいやばい、赤葦の前でそんなことしたら…
「YOUちゃんかわいーね」
「…え、はは……」
「ねー、2人で抜け出さない?」
途端にガシャン、と赤葦がタイミングよく箸を落とす。それをテーブルの下に屈んで拾った時、耳元で囁かれる。
「行ったら許さねぇから」
クールだ大人だなんだ言われている赤葦だけど、結構彼は単純でわかりやすい。嬉しかったら顔が緩むし、怒っていたら口が悪くなる。だから今の赤葦は……
「ご、ごめんなさい」
「えー?振られたー!」
めちゃくちゃ怒ってる。話しかけられたりした時すごい笑顔で返してるけど、何年も付き合ってるから怒りが滲み出てるのが分かった。
それに内心すごく焦るけど、そんなこと全く知らない左側の相原さん(さっき聞いた)は馴れ馴れしくずっと話しかけてくる。その度に赤葦の期限は悪くなる一方で。
「今彼氏いるの?」
「え、えーと……」
「好みのタイプってなに?」
「別にそんな……っ、」
ぐっ、と赤葦が足をぴったり寄せてきて、思わず固まる。
相原さんは不思議そうに聞き返してきたけれど、赤葦は何も無いかのように振舞っている。相変わらず演技が上手くて怖いな、と改めて思う。
それから赤葦は私が他の人と話すたびに脚を触ってきたり靴を踏んできたり、肩をぶつけてきたり。
何がしたいのか分からないけれどとにかくちょっかいばかりかけてきては私はそれを隠すのに必死だった。改めて本当に彼は怒っているのだと確認する。
結局隙を見て帰ることもできず、最後まで居た。
▽▽▽▽▽
「じゃあお開きってことで!」
「えー、二次会やらないの?」
「俺明日仕事だし」
なんだか盛り上がるメンバーを目尻に、帰るに帰れなくて固まる。そりゃすぐにでも帰りたいけれど一応奢ってもらっちゃったし、挨拶はしなきゃ。
ひと段落つくまで待っていると誰かに肩を掴まれる。
「あの、もしよかったら連絡先…」
「YOU」
「帰るよ」と短く、挨拶もなしに無愛想に私の腕を掴んで歩き出す赤葦。話しかけてきたその人は私達二人の顔を呆然と行き来して見て立ち尽くしていた。
そりゃそうか、さっきから一切話してなかったのに呼び捨てだし腕引かれてるし。
明らかに怒りが滲み出ている彼の大きな背中を見つめて、少し強めに掴まれている手首を見る。解けないくらいには強くて、多分そこまで気が回らないんだろうし言っても辞めてはくれない。
「…赤葦、」
「……」
「どこ向かってるの」
「私の家、こっちじゃないんだけど」見上げてそう言えば
ただ一言。
「俺の家です」
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「…ん、ぅあ、」
「浮気ですか」
「ちがッ、…ひ、」
家に着いて玄関に入った途端。
噛み付くような、まるで自分の欲望だけに任せたキス。噛んだり舐めたり、いつもはあまりしないキスマークも飽きるくらいもうつけられた。
いやだ、こんなの。
胸板を押しても腕を掴んでも、現役アスリートはビクともしない。強く引っ張られそのまま床に強く背中を打つけれどそれに怒る暇もなくまた噛みつかれる。しかも、絶対跡が残るように意識してつけてる。
「ん、ぅぐ、う、ぅ、あ…っ」
「声出してくださいよ」
「っやだ、やだやだってあかあ、…ぅ」
足の付け根あたりをぐりぐりしたり、優しく触ったり。びくびく震えるのを楽しそうに目を細めて見る赤葦を、目に溜まる涙越しに見る。
やばい。これ最後までするパターンじゃ…
「今度出掛けませんか、ですって」
「……え?」
「…あいつか」
そう言って見せてきたのは私の携帯で、さっきの合コンの人からのLINEだった。名前を見る限り、多分最後の声をかけてきた人だと思う。赤葦が眉を寄せて不機嫌そうに舌打ちをする。
血が出そうなくらい強く首を吸われて、背中が反る。
「へぇ、連絡先教えたんスか」
「お、しえてな……」
そう乱暴にベッドに投げられて、赤葦の体重が腕にのしかかった。痛いけど、焦りの方が強い。
驚きと痛さと怖さと怒りとで頭がぐちゃぐちゃで、どうするべきかも分からずにただされるがままの状態になってしまう。力で反抗なんて叶うわけないし。
「やだ…っ」
「…なんで、泣くんですか」
「こわい、赤葦…やだ」
ピタリと彼の動きが止まって、視界が涙で具にゃりと歪んで見える。悲しそうな顔をしているのが分かった。
意地悪なことばっかりしてたけど、赤葦は優しかった。いつもペースを合わせてくれてて、待ってくれた。なのにこんな無理矢理なんて、赤葦のことを怖くなってしまいそうでそれが一番いやだった。
溢れる涙に、彼は呆然とする。その顔は少し冷静さを取り戻したような顔で。
「話、聞いて……待ってよ」
「…だって、アンタは何も言わないから」
「赤葦だってそうじゃん!」
突然大声をあげた私に驚いたような顔でこちらを見る。目に溜まった涙を袖で拭きながら彼を見た。
「今日ずっと待ってたのに来ないし、なんか女の人といるし、自分の気持ち何も言ってくれないし、待ってって言ってるのに全然聞いてくれないし、連絡のひとつくらいしてくれてもいいじゃん…」
息が苦しくて、頭がガンガンする。
こんなに長く喋ったのは久しぶりだし、なにより本音をぶちまけたのは初めてだった。赤葦はなんとなく、泣きそうな顔をしていた。
それに驚いて固まると肩に頭を預けられる。
「…連絡は、すみません。送ったんですけど電波が悪くて、さっき見たら未送信になってました」
「…………」
「急遽練習試合が入ったんです。先輩の引退試合も近いし行かないわけにはいかなくて…それで、未送信だったのに全然気付かなくて、俺の確認不足でした。」
肩に赤葦の熱が籠る。掴まれていた手首はいつの間にか離れていて、見ると少し赤くなっていた。
多分彼もこんなに長く話すのはあまりないのだろう、頭のいいはずなのに何度も言葉につっかえていた。それがなんだか胸が苦しくなって、手に力がこもった。
「女の人は、ただのマネージャーです」
「……」
「不安にさせてたらすみません、でも俺浮気なんてしたことないしこれからもするつもりは…」
「わかってる、ごめん、私も…言葉が足らなかった」
顔を上げた赤葦の頭を撫でると一瞬目が揺れてから、思いっきり抱き締められた。ちょっとだけ痛いけど、今はその痛さが心地よくて。
彼の身体に埋まった顔を上げて息を吸うと、唇が優しく降ってきて重なる。
「でもあなたも他の男にベタベタさせるのはどうかと思います。俺、今にも相手殴りそうでした」
「そんなこと言ったら赤葦もじゃん!さっきとかさ!」
「ええ、あなたへの仕返しです。それとこの間同じバイトの人に告白されてましたよね」
「なんっ…で知ってんの!!」
饒舌が戻った彼の肩を叩くとまたその手が掴まれて、薄い唇を押し付けられる。
そのキスはさっきとは違って、酷く優しかった。
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作者名:すばる | 作成日時:2018年7月15日 15時