【ツイステ】花のない人へ【男主】

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「すき、きらい、すき」

花弁が段々と消えてゆく。
奇数だから必ず「好き」で終わるとは知っている。

だけど、少しでもあの人へ告白する後押しをされる気がするのだ。

ーーー
どぽぽです！

Twitterで「花なんか別に好きじゃなかった」で始まり「花瓶にバラが一輪だけ差してあった」で終わるというお題で書いたものです。

一気に読める形式の方が良いかと思いホムペで書きました。オチは本編にて。ヒントはハーツラビュル寮の誰かです。

では、どーぞ！

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花なんか別に好きじゃなかった。

だって、花なんて飾っても何もメリットが無いじゃないか。手入れは面倒だし何れは枯れてしまうし。

『……またか』

だから、鬱陶しかった。
誰が置いたかはは知らないが毎朝部屋の扉を開けた先に花が落ちている。きっと意図的に。
俺に花を送るなんて、無意味なのに。

一輪の渡された黄色の花を見て、俺はため息を吐いた。

「良い匂いだ。花を育てているのか？」

『不本意だけどね』

部屋へ訪れたトレイにまで言われる始末である。

彼は今朝貰った花を手に取り笑みを浮かべた。匂いなんて香水でも付ければ良いのに、彼が花を愛する理由が分からない。

「買ったのか？」

『まさか。貰っただけ』

「誰に？」

『知らない』

そう言うと、彼は目を丸くした。

ここ1ヶ月くらいずっと花を渡してくる人が居る。花を送る意味は分からない。害はないから放置しているが正直花に部屋のスペースを取られるからやめて欲しい。

しかし、少なくとも相手は好意を持っているらしいし蔑ろにするのは申し訳ないから黙って受け取っている。

「名前も知らない相手に、それって大丈夫なのか？」

『さあ。一応憶測だけどうちの寮生』

この寮に入るには許可が必要だ。それにここの寮生以外は夜中の真っ暗な廊下を歩いて俺の部屋に辿り着けるほど覚えていないだろう。

それにしても、一応俺に何かしら感情を抱いて花を送っているのに、何で何も行動しないんだろう。普通、名前を名乗る位はするだろうに。

『不思議だよね。何で知らない人に花送ってんだろ』

「お前が相手の事を知らないだけだろ。はぁ、もっと人に関心を持ったらどうだ？」

『別に知る必要ある？あっちも姿も見せないし』

相手が何か行動をすれば可能な限り応えるつもりだ。だけど彼は俺に花を送るだけ。

まあ、下手に探られても相手は嫌だろう。だからお互い何も言わずこの関係を続けている。

「それでも、ソイツは毎日お前にわざわざ花を置いてるんだろう？花だってタダじゃない。何か意図があっての行動だから、もう少し気に掛けたらどうだ？」

彼はそう言った後、苦笑して部屋から出てしまった。

部屋の中に飾ってあった青い花に目を移す。

これは、一番最初に送られた物だったっけ。

少し萎れてる気がする。萎れてる花なんて部屋にあったら気分も萎れそうだな。その内、この大量の花達も枯れて腐ってしまうかもしれない。茶色に染まる姿は、余り見たくないな……。

仕方ない。長持ちさせる方法でも今度調べるとしよう。

この三年間在校していたが一度も訪れたことの無かった図書室は森閑としていた。
大量の本棚の中から、植物に関連しているコーナーから取り敢えず一冊だけ引き抜いた。

ネットで調べた方が早いかもしれないが、方法があり過ぎて何をすればいいのか分からないし効果があるのか不明。結果が分からないことをするのは無駄である。それならこっちの方が早い。

『……だる』

とは言っても、やはり長文の小さな文字を読むのは憂鬱だ。思わず不満がこぼれた。

そして本を借りて寮へ戻った。

『バクテリア？エチレンガス？何？急に化学の授業でも始まった？』

難しい言葉の羅列が並び始めて脳が拒否反応を起こす。
花を管理するのは容易くは無いらしい。なんて面倒な物を渡してくる野郎なんだ。

取り敢えず、エアコンの風に当たる場所は避け、切り花の切り口を少し切って花瓶などに入れると良いらしい。
萎れた花や枯れた葉はちゃんと取り除く。

そして、出来る限り指示通りに行うと、何となく綺麗になったような気がした。

翌日。
やはり花は部屋の前に置かれていた。今日も俺の前には姿も見せず、ただ花を供えるだけ。

変な人。まあ俺に花を渡してくる時点で変人とは知っているが。

渡されたピンクの花を見つめる。可愛らしい花だが、また面倒事が増えてしまったな。やれやれ、と再び部屋へ戻ろうとすると声を掛けられた。

「ネリネか。珍しいね。君が花を持っているなんて」

大きなグレーの瞳を細めて、彼は“ネリネ”と呼ぶピンクの花に視線を移した。

『ネリネ？この花のこと？』

「そうだよ。ネリネという花の名前は、ギリシア神話に出てくる水の妖精「ネーレーイス」に因んでつけられたんだ」

流石、二年首位を保つ寮長。花についても知識があるようだ。

寮長はやはり顔は可愛らしくこの花に良く似合う。彼も、俺みたいな可愛げの無い男よりもこういう可愛い人に渡せば良いのに。

寮長だったら花の知識もありきっと上手く話をふくらませてくれるだろうな。

「それにしても、薔薇の手入れもマトモに出来ない君が個人的に花を育てている噂は本当のようだ」

少し嫌味っぽい言葉が混ざってる気がするのは俺だけだろうか。

まあ確かに花の扱いが雑だと寮長に怒られ、俺はいつも買い出し係か片付け係ばっかり押し付けられるけどさ。

『貰ったから、部屋に置いてるだけだよ』

「誰に？」

『知らない』

「……知らない奴から貰った花を？もし悪意があれば危険だ。花には毒のあるものもある。まあ、ネリネならば大丈夫だろうけど」

寮長は警戒心が強過ぎる。俺を殺したり苦しませたりしたいなら、こんな花を渡すよりももっと早い方法があるだろう。

『どうしてネリネなら大丈夫なの？』

「ネリネを選ぶ所、君に悪意は無いさ。毒もないし、キラキラ輝いてるからダイヤモンドリリーという別名もある、人気の花だよ。この時期は咲いてないだろうし、相手はわざわざ君の為に買ってくれたんだろうね」

ふぅん、と相槌を打って花を見直した。

まあ確かに可愛いけど、ダイヤモンドは言い過ぎじゃないか？
花なんて全部似たような感じだけど、意味まであるなんて奥深い世界だ。

「うっわぁ、凄くメルヘンな部屋！ねね、この写真マジカメにアップして良い？」

『勝手にどうぞ』

ケイトが部屋に来たいと言った為、勝手にさせたらこの部屋の変貌に騒ぎ始めた。シャッター音が鳴り止まない。

前までは必要最低限しか置かれてなかった殺風景な部屋が今じゃ白やピンクや黄色など色とりどりの花に囲まれている。

「前々から良い匂いするなーって思ってたけど、こんなに花を育ててたなんて、案外乙女？」

『そんな訳ないから。貰っただけ。でも、ここまで多いと部屋のスペース取られて困るんだよね。花、好きなんでしょ？あげるよ』

「いんや、俺は別に好きって言うかー、可愛いから撮るだけで育てるのはちょっとめんどい」

なんだコイツ、と脱力した。
まあ、俺も彼とは少し似ているが。

「でも、こんなにあったら確かに手入れ大変そうだね〜……あっ、押し花とかにするのはどう？」

『押し花？』

「姉ちゃん達が作ってたんだけど、結構簡単に作れるよ。ドライフラワーとかもあるけど、どっちがいい？」

調べてみると、花が枯れず保存出来る方法らしい。ドライフラワーは下手したら作るのに1ヶ月もかかるらしいから、数日で出来そうな押し花を作ってみることに決めた。

花を乾燥させたりなんてしたら一気に枯れてしまうのではないかと思ったが、水分が取れただけで恰好に変化は無かった。花って不思議だ。

「先輩、それって押し花ですか？」

『うん。昨日作った』

「昨日！？最低でも数日は置かないとって母さんは言ってましたけど」

デュースは目を丸くした。一般的にはそうらしいが、魔法で乾かせば早い物だ。
因みに押し花にしたのは、白い花だ。名前は相変わらず知らない。

初めての割には良い出来だとケイトにも褒められた自慢の栞である。思わずデュースに自慢げに見せてしまった。

『可愛いでしょ。俺、この花好きなんだよね』

「マーガレット、僕も好きです」

マーガレット。聞いた事がある。この花がマーガレットというのか。
この花の名前を知っているなんて、デュースは意外と花についての知識があるのか、はたまた俺が無関心なだけか。多分後者だろう。

「花言葉は“心に秘めた愛”って言うんです」

『へぇ、ロマンチック。デュース、そういうの知ってたんだ』

「ぼ、僕じゃなくて母さんが好きなだけです！」

顔を赤くして否定するデュース。その恥ずかしがる姿に思わず笑みがこぼれた。思春期だから余り指摘はしないほうが良いかもしれない。

デュースの言った花言葉という物に少しばかし興味を持ち図書室へ訪れた。

名も知らない花を送る彼は、何か花で伝えようとしているのかもしれない。以前ならば無理に調べる事でも無いと思っていたが、今は少しだけ彼に興味を持った。

「あれ、先輩。こんなとこで会うなんて珍しいッスね」

『俺も君と会うとは思わなかったよ』

図書室で浮遊魔法で本を取ろうとしていたエースと会った。どうやら彼は課題の参考書を借りる為に訪れたらしい。

「先輩は、なんで来たんスか」

『花言葉を調べるために』

そう言うと彼は目を見開いた。自分でも柄にもないことを言ったとは思う。

「へぇ、花言葉。何でそんな事を？」

『毎日部屋の前に花が置いてあるんだ。だから、何かその花の意味を探るのもアリかなって』

「こっわ！花とか先輩死んだかと勘違いされて供えられてるんじゃないッスか？」

彼は揶揄うように口角を歪ませて聞いてきた。勿論直ぐにデコピンの刑を執行した。
その後、もう帰るのかと思いきや額を抑えながらも俺の隣で本の中身を覗いてきた。よく分からないやつだ。

まあ、彼の事は放って花言葉を調べるとしよう。先ず最初に送られてきた青薔薇。薔薇は薔薇でも色によって花言葉の意味も異なるらしい。

「夢が叶う、ですってよ」

『何の夢？』

「さあ？ソイツになんか夢があるとか？」

成程、と勝手に考察をして次の花へと紙を捲った。

「貴方しか見えないとか、私を思って、とかコイツ超女々し！！」

貰った花の花言葉を一つ一つ調べると、全て恋や愛に関する物だった。何かしら俺に感情を抱いているとは思っていたが、まさかここまでとは。
エースはこの花言葉の重さと相手が俺ということも相まってげらげらと笑っている。図書室から追い出されろ。

「いやぁ、まさかこんなに先輩を想ってる人が居るなんて。先輩、幸せ者ッスね」

『知らない相手だけどね』

まあ、人に好かれるのは嫌ではない。それに、言葉を直接伝えるのではなく花で贈るなんてロマンチックだ。相手は俺だが。

……でも、花を渡し始めてからいい加減一月以上は経っている。少しは行動を起こしたらどうなんだ。
なんて、俺が怒ってどうする。しかし俺も動かないと彼はずっと花を送るだけ。

最後に送られた花はブライダルベールという名の物で花言葉は「幸福」

白いベールのように可愛らしい花である。花言葉はもう一つあり「願い続ける」というらしい。……何を願っているのだろう。

その後も、花は何度も贈られた。何度も俺は栞を作った。今じゃ前は失敗した凸凹のある花でも綺麗に作れる。

贈られる度に花言葉の意味も確認するようになった。名前も知らない彼は、いつも律儀に可愛らしい花言葉を持つ花を送る。いつしか、俺は花が置かれる事を楽しみにしていて彼の恋心を応援していた。

『……見つけた。やっぱり、君か』

ついに部屋の前で待ち伏せをした。わざわざ睡眠時間を削って人を待つなんて面倒極まりないが、今はそれよりも彼の顔を見る事の方が重要だった。

彼は俺の姿を目にし、そのピーコックグリーンの瞳を大きく見開いた。

デュース。
俺に、花言葉の存在を教えてくれた人。

一般的にマーガレットの花言葉は恋占いとして有名だ。花弁は必ず奇数で「好き」「嫌い」と花弁を取っても必ず好きになる、と恋を応援する花。

しかし、彼は“心に秘めた愛”と言った。それは単に覚えていただけかと思ったが、やはり意図があったらしい。

「あの、僕！！」

口を開いた彼に人差し指を立てた。
そして、一輪の花を渡した。

『これ、色によって花言葉違うらしいね。返事はまた今度よろしく』

そう言って目を細めた。

その日、デュースの部屋の花瓶に薔薇が一輪だけ差してあった。

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