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雛瀬の作詞。

こちらにある、【僕らが壊す世界】の原作小説です。

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世界に溶けた彼らは、悪へと成った。

しかしそれは……本当に悪なのか。

語り継がれる、彼らの破壊劇。
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とある学園の一室にて、数名の男女が大きな机を囲んで談笑していた。

仕事にも休憩は必要だ、と年長者、森田の一言で張り詰めていた空気が一気に緩んだ。


「そういえば、今日は《能力者保護の日》ですね!」


ふとカレンダーを見た紅一点、百合(ユリ)がニコニコと効果音でも付きそうな程、顔に笑顔を浮かべて言った。

その言葉に、先程休憩を指示した森田が、紅茶を飲もうとしていたカップを置いて反応する。


「そうだったな。……確か今年は、丁度藤京事変から10年だって、天宮(アマミヤ)先生が言ってたな…」

「もう10年ですか〜」


時の流れは早いですね!とおどけて言う百合に、正面に座っていた黒石もカレンダーを見た。


「僕はあの時、丁度5歳になったばかりですね」


あの年は色々ありましたから。と溢す黒石に、横に座っていながら全く話について行けない剣田が、慌てて相棒を制止させる。


「ちょっと黒石お前待て。
それに先輩方も止まってください。
……何すか?藤京(とうきょう)事変?…って」



・ ・ ・


少しの間。
剣田の一言に、話を続けようとした3人が一斉に剣田の方を見て、固まった。


「__そうでした!
彼、在京町(サイキョウマチ)の出身ですから、藤京事変のこと……知らないんですね!いや〜私ったら、うっかりしてました♪」


いち早く謎から解き放たれた百合が、剣田をフォローする。


「そうか……彰(アキラ)は知らないのか……」

「流石にあちらまで騒ぎは伝わらなかったんですね」


百合の言葉に我に返った森田と黒石も、頷く。


「優斗も5歳なら、被害に遭っても詳しくは知らないよな。ユリちゃんは知ってると思うけど、改めて説明しようか。……藤京事変について。」


森田は少し間を置いて、話始めた。


「藤京事変は、オレ達と同じ能力者が起こした、藤京建国以来最悪のクーデターみたいな事件だよ。」

「事件の中心となったのは、18歳の少年少女4人。彼らもこの陽光・月影学園で生活していたんだ」

「じゃあ何故、彼らは史上最悪の事件を起こしてしまったと思う?
彰、答えてみて」


森田からの突然の投げ掛けに驚きながらも、剣田は少しの間考えてから答えた。


「政府に不満を持ったから……とかっすか?」

「近いですけど違いますね」


剣田の答えを黒石がバッサリと一刀両断した。それに、剣田が黒石に手刀を食らわせる。


「うっせ。お前は知ってんだろーが。黙って聞いてろ」

「……暴力は良くないですよ」


あ、これ長くなるパターンだな。
早々に察した森田は、二人に声を掛ける。

百合は既に紅茶を飲み終わったのか、静かに席を立った。


「二人ともー話戻すぞー……」

「「うっす/はい」」


従順というか扱いやすいというか……
単純な二人に呆れながらも森田は続ける。


「優斗の言った通り、彰の答えは半分正解で半分不正解だな。」

「主犯達の名前は
《東雲 春樹》、《小野山 七海》、《藤咲 スミレ》に《霧島 零央》。
この4人は知ってしまったんだ。
__政府の、国家レベルの秘密を。
更には……この世界の核心に迫ってしまった」


「だから、クーデターを……?」

「どんな秘密だよ。
それを知っちしまったら、世界を破壊しようなんて考えるくらいだろ?」


おかしいだろ、と言わんばかりの剣田に森田は頷いた。


「そうだな。流石にその秘密までは公表されなかったけど……政府への信頼を欠く程に酷い秘密事だったんだろうな」


森田はそっと目を伏せた。
そしてそのまま続けようとした__が。


「ただ……ひとつ言えるのは、その人達があの時クーデターを起こしたお陰で、今の私達の権利が守られるようになった……ってことですね!」


いつの間にやら帰ってきた百合が、やはりニコニコしながらまとめた。


「ユリちゃん?オレが決めようと思ったんだけど?!」


思わず百合の方を見て叫ぶ森田に、百合は席に座りながら笑った。


「いや〜!カッコつけようとした人のセリフを横から言ってやる時ほど、気持ちの良くなることはありませんね!灯也さん、残念でした♪」


してやったり、という表情を浮かべる百合を見て、森田は項垂れた。

その瞬間、タイミングを見計らったかの様に森田の携帯が鳴った。

森田は携帯を一瞬見てから立ち上がる。


「休憩はもう十分だろ?……呼び出し食らったから出てくる。先始めといてくれ」


「「了解です」」

「いってらっしゃい、灯也さん!」


いってきます、と呟いて森田は部屋を出た。


「……百合先輩。結局、どうしてあの4人は世界を破壊しようとしたんすか?」

「……大切な人を守るためじゃないですか?
世間一般的に見れば、世界が破壊されかけた日を《能力者保護の日》になんてしないでしょう?」


黒石の問いに、百合はパソコンを開きながら静かに答えた。

その声に、先程までのようなはつらつさは含まれておらず、剣田と黒石は百合が真面目に答えていることにすぐ気づく。

そんな百合を見てから、剣田は外に目を向けた。


「大切な人を守るためなら、どんな犠牲を払っても構わない……か。あの人達は、よっぽど悪が許せなかったのかもな……
そういうのが、本当に守る……ことなのかもっすね」

「あの4人は……自分なりの正義を貫くために……世界を壊したんだ。
___すげー人達だな……」


剣田の呟きは、百合のパソコンのキーボードを叩く音に掻き消された。


* * *

『大切な人を守るためなら、どんな犠牲を払っても構わない……か。あの人達は、よっぽど悪が許せなかったのかもな……
そういうのが、本当に守る……ことなのかもっすね』

『あの4人は……自分なりの正義を貫くために……世界を壊したんだ。
___すげー人達だな……』


その小さな呟きは、外にいる森田の耳にも届いていた。


「___だってよ。彩華」

「聞こえてるよ。輪也。……すごいのは彰くんの方だよね」

「兄さん達をあんな風に言ってくれる人がいるなんて思わなかった」

「うん。春樹兄さん達も喜んでるよ」


しばらくの間。沈黙は嫌ではなく、寧ろ心地いい。

それから森田は深呼吸をしてから、目の前の相手に声を掛けた。


「……時間が無いし……行こうか。
《瑠衣奈》」

「えぇ、《灯也》。私はまた行かないといけないから」


目を合わせて、どちらともなく歩き始める。


__二人が去った廊下は、妙に冷たかった。

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作者名:雛瀬 紗良. | 作成日時:2021年7月7日 20時

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