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まふまふside
相川真冬、とネームプレートが下げられた病室に入る。
本来ならば、自らの病室にリスナーさんである彼女を招き入れるのはよくないことだとはわかっている。
だが、彼女には異常なほどの焦りがあった。まるで、命にでも関わるような。
「ここが、僕の部屋です。…一度、座った方がいいですよね」
あからさまに顔色の悪い彼女を見る。
怪我をしている様子はなさそうだから、どこか病気なのだろうか。
「ここ、座ってください」
それでも尚、彼女は不安げだ。
扉の方をしきりに見ている。そこまで看護師さんに見つかるのが嫌なのだろうか。
「大丈夫ですよ、ここには看護師さんは来ません」
僕は既に全快している。
看護師さんが来るのは食事の時だけだし、今日お見舞いに来る予定のそらるさんも午後からだ。
少なくとも午前中の間は、ここに訪問する人はいない。
そのことをかいつまんで説明すると、彼女はようやく安心したようだった。
「…すみません、急にお邪魔してしまって。私は、沢島Aといいます」
「僕は相川真冬といいます。……さっき口にしていたので気づかれているかと思いますが、歌い手の“まふまふ”です」
そう自己紹介をすると、沢島さんは大きく息を吐きだした。
「よかったです…」
「え?」
「いえ、倒れたって聞いていたので。元気そうでよかったです。これからも無理はしないでくださいね」
やっぱり心配をかけているんだ。ちゃんと体調管理はしないとな。
すると、沢島さんは慌てて口を開いた。
「あ、あの! 大丈夫、なんですか? 部外者なのに、病室に入れてしまって」
本来なら、いけないことなのかもしれない。
リスナーさんである彼女に、“まふまふ”のプライベート空間を見せることは。
けれど、なぜか彼女は大丈夫だと思ったのだ。
「僕が大丈夫だと判断したので、いいんですよ」
それに、どうも放っておけなかった。儚く、手を放せば消えてしまうような彼女を。
“儚さ”はときに“死”をも連想させる。
怖かったんだ、彼女の儚さが。
そしてなにより、彼女の必死さ。
看護師さんから逃げているとき、命でもかかっているかのように彼女は必死だった。
「あの、なんで看護師さんから逃げていたんですか?」
ふふっ、と彼女が微笑む。
けれど、出てきたのは、花が綻んだようなその笑顔とは無縁の言葉で。
「___私、もうすぐ死ぬんです」
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます! (2022年12月5日 9時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです! (2022年11月4日 20時) (レス) @page22 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - 藍猫さん» おお!おめでとうございます!!(一年ほったらかしにしてて本当にごめんなさい……) (2022年9月4日 11時) (レス) id: 84f8a35d43 (このIDを非表示/違反報告)
藍猫 - スウッッーーーーー…そういえば10月18日って私の次の日じゃないですか…えまって嬉しい( 〃▽〃) (2021年7月17日 2時) (レス) id: 0f30a0c194 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - 翡翠琥珀さん» 飢えているから書けたんですw そう言っていただけるなんて嬉しいです……! 自信につながります1 (2020年6月18日 21時) (レス) id: a6aff5c4e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年4月30日 15時