#子犬みたいで ページ4
端の方のテーブルに、ちょこんと1人座ってちびちび飲んでいる人が目に入って、自然と体がそっちの席の方に動いていて。
大きめの黒縁眼鏡、長めの前髪で表情どころか顔も良く見えてなかったけど、どうしてか気になって。
近くで見たら、瞳なんて潤赤色でキラキラしてて子犬みたいだし、ちょんと突き出た上唇と少し厚めの下唇なんて絶妙のバランスで。
『どーぞ』って返事した後に、くるんって上がった口元なんて、カワイイ以外の何物でもない。
「……はじめまして、ですよね?」
『あぁ、そうなんかな?』
「たくさんいて、分かんないですよね」
『んふふっ……それは確かにそーやな』
「あ、私、Aって言います」
『俺、坂田やで!』
それが、彼。
坂田悠との出会い。
坂田さんと私は同い年で、最初お互いにお互いを年下だと思い込んでいたから、なんとなく笑ってしまって。
それが仲良くなったきっかけかと言われると、そうとも言えるし、そうとも言えない。
ずーっとビールばっか飲んだ。
エイヒレとかをちまちま食べた。
時々、焼酎とか日本酒とか。
お酒も肴も甘い物が無かった。
だから、ずーっと話せた。
お互いに学生だったから。
早番の人達が帰って。
働いてた人達が合流して。
居酒屋からカラオケに移動して。
『……朝日がつらいわぁ』
「……目に痛い」
酔っぱらった頭のまま、お互いに、へらっと笑った。
ホームで電車を待ちながら、帰る方向が一緒だって知った。
『じゃあね、A』
「うん、坂田さん、またね」
先に電車を降りた彼に手を振って。
見えなくなるまで彼はホームにいた。
酔った頭で覚えていたこと。
一緒の大学だった。
彼もひとり暮らしだった。
彼も晩酌が日課だった。
音楽が好きだって言ってた。
ハンバーグが好きだって言ってた。
ゲームはもっと好きだって言ってた。
お酒は割と強かった。
ずーっとほろ酔ってた。
唄がくそほど上手かった。
バイト先に、仲良しができた。
私の心はウキウキと弾んでいて。
楽しい事や嬉しい事があったら、付き合ってる彼に報告したりしていたんだけれど、どうしてかバイト先の話をする私を、彼は良く思ってくれなくて。
それからは、あまり彼にバイト先の話をしなくなったように記憶してる。
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