三十二話 ページ32
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「そ、らるさん…」
Aちゃんの腕を掴んでいたのは、そらるさんだった。
…なんで、ここに。
「…まふくん、久し振り。朝早くにごめんね」
「天月くん…」
「聞きたいことがあるから、お邪魔してもいいかな…？」
ちらりと俺の後ろにいるAちゃんに目配せをすると、小さく頷いた。
…いずれ、話さなきゃいけないとは思っていたけど、いきなりだな…
「…どうぞ」
仕方なく、二人をリビングに案内する。
…あーあ、せっかくの朝ご飯が冷めちゃう。
朝ご飯にラップを掛け、よけてくれているAちゃんにお礼を言いつつ、二人と向かい合った。
「で、何でここに来たんですか？」
冷たく言い放つと、下を向いていたそらるさんがパッと目を上げた。
僅かに目を見開いて、弱々しい声を出した。
「…まふまふが心配だったから。それと、あの呟きの真意を聞こうと思ったんだよ」
「……真意も何も、あの呟きが全てです。
俺は、まふまふでいることに疲れた。だから、まふまふを辞めると決めました」
「っ、辞めちゃうの？僕、まだまふくんとライブとかコラボとかしたいのに…！」
「…ごめん」
リビングが、静まり返る。
居心地が悪くなって、顔を逸らした。
「まふまふは…ずっと、この活動が嫌だったのか？」
「え…？」
そらるさんと目が合う。
…なんで、そらるさんがそんなに苦しそうな表情をしているの。
「歌ってみただけじゃなくて、ライブ、コラボ、ネタ動画…全部、嫌々やっていたのか？」
「本当はずっと、まふまふを辞めたかったのか？」
「っ…それ、は」
違う。
あの呟きをするまで、ずっと悩んで苦しんではいたけど、まふまふを辞めたいと強く思ったことはなかった。
ただ、辞めたら解放されるのかな…って、漠然と思っていただけ。
「……なんで、相談しなかったんだよ」
そらるさんの漏らしたその言葉を耳にして、頭の中で、何かがプツリと切れた。
「っ！相談していたら、何か変わったんですか！？」
ガタッと立ち上がり、唇を噛み締めた。
言っちゃ駄目だ。
頭では分かっているのに、喋り出した口を止めることは出来なかった。
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作者名：鈴里風夢
| 作成日時：2019年2月2日 17時
